19



 学校について時計を見やると針が示すのは丁度七時だった。


「早く来すぎた」


 家にいてもすることがないからってこれは無かったなぁ。一応門は開いていたけれども。ま、朝練は休みみたいで人っ子一人いないけどねー。さてと、何しよう。


「屋上にでも行くかぁ」


 静かな学校の階段を昇って昨日ぶりのドアの取っ手を回した。ドアが開いた瞬間冷たい風が僕の髪を揺らしていく。まだ上がりきらない太陽が下の方に見える。フェンスに手をかけて町全体を視界に映した。人間が動き出す様子を眼下に見ながら昨日のことを思い出す。


『その人のことかなり気に入ったんだ?』


 複雑そうな表情でそう言った真。


『名前覚えてるじゃん』


 言われてようやく気が付いたこと。無意識の内にしていた、今まで拒んできたことを許したその行為は何の意味があったのか。自分の心に問うても、いっこうに答えは見つからない。


「“大切”は作ってはいけない」


 きっと傷つくのは僕じゃなくて相手だろうから。それでも、それを真は許してしまった。僕じゃなく、彼自身が許したんだ。
 けれど、わたり先輩は?何故なのだろうか。いつの間に名前を呼んでいたの?それは思い返せば最初からだったように思う。僕の中に彼という存在はスルリと躊躇いなく入り込んできた。それはあまりにも自然で、僕自身気づかなかった。“彼は駄目”だと頭の中で警報が鳴る。

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