真 side
『僕が名前を呼ばないのは、覚えないのは、大切なものを増やしたくなかったからなんだよ』
そう言った椿。分かっていたんだ、と思う。俺が悩んでいたことを知っていたのだと。それと同時に、椿の心の奥底の傷は存外に深いことを思い知らされた。自分の為じゃなく、他人の為に。椿は優しすぎるから。
いつか、話してくれたら良いなと思う。いつか、俺にもその果てしなく重いソレを背負わせてくれたなら。
いつものヘラリとした表情も今は眠っていて。無表情な寝顔は大人びていて、いつもの馬鹿っぽい表情は嘘のようだ。
「…そういえば昔は緩い喋り方じゃなかったなぁ」
本心の扉は鍵がかけてあるのだろうか。
(―――きっと堅いんだろう)
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