16



「―――椿?」


 名前を呼ばれて目を開く。あぁ、夢見は最悪だった。夢であったなら良かったのに。どうして、こう上手くいかないのだろう。


「…真」


 視界に写ったのは真だった。心配そうに目を揺らしている。その頬にそっと手を添えれば、目を瞠ってこちらを見てきた真にくすり、と笑う。


「椿?」
「真」


 困惑気味に僕の名前を呼ぶ声を遮る。どうしても、今伝えたいことがあった。


「僕が名前を呼ばないのは、覚えないのは、大切なものを増やしたくなかったからなんだよ」


 ずっと、僕が名前を呼ばない度に瞳の奥で寂しそうな色を灯していたことは、とうの昔に知っていた。今だってそう。何があったか、決して聞こうとはせずにそれでも心配の色を浮かべる。ありがとう。感謝しているんだ、これでも。


「ありがとう。大丈夫だよ」


 そう一言呟いてまた眠りについた僕を、驚いたような、嬉しそうな、悲しそうな複雑な顔をしていたなんて、僕は知る術を持たない。

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