09



「もう放課後だから残念無念また来週〜」


 え、古い?そんなの知らなーい。…逃亡失敗しました。逃げようと立ち上がった瞬間僕が腕を掴まれてバランスを崩し先輩の胸の中にダイブ!


「んぎゃっ」
「色気ねぇな」
「僕に色気を求めないでクダサイ」


 変な声出た!すっごく恥ずかしい。先輩も笑ってるし。


「…はぁ、もう何なのー」
「理由は特にない」
「えー」
「が、」
「が?」
「あえて言うなら離れるのが惜しいと思った」


 じっと先輩に見つめられる。真剣なその目にビクリと体が震えた。


「そういうのは、僕に言うべきじゃないですよー」


 搾り出した声は、震えていないだろうか。


「そう、か」


 先輩は何か言いたげに口を開けたけど、それだけ言って噤んだ。一度僕は目を伏せ、けれどすぐに目を開けて笑った。


「はい、そうなんです」
「…あぁ」


 先輩は困ったような苦笑を返す。僕はするりと先輩の腕から抜け出てドアに向かった。


「またな」


 後ろから声をかけられて振り向く。どう答えるか一瞬迷ったけれど、出た返事は結局。


「うん、またねぇ」


 また、だなんていつぶりに言ったかな。次を期待する言葉なんて…。

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