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「でも、なんでもっと早く俺に言ってくれなかったんだよ」
俺の問いかけに兄貴は渋い顔をして頭を掻いた。
「あー…それはなあ」
気まずそうにちらりと俺を見た。だけどすぐに目線を逸らすとどこか遠い目をし出した。
「あのおふくろと親父のことだ。…たぶん、お前に言ってないってこと忘れてたんだろうな」
「はあ!?」
ちょっと待て!家庭崩壊の危機に関することに「忘れてた」はないだろ!
…いやでも待てよ。あり得るかもしれない。あの母さんと父さんのことだ。天然コンビが忘れないだなんて断言できない。なんて親だ!
「かく言う俺もすっかり忘れてたしなあ」
「おいそこ!駄目だろ!?」
「だよなー」
あははと軽やかに笑う兄貴。「あはは」じゃねぇよ!俺にとっては大事件なんだからな!?
「真面目な話、血は繋がっていなくてもお前のことは弟だと思ってる。良は?」
ふと真剣な顔に戻った兄貴をじっと見る。本当の兄弟じゃないなんて言われても、今更だ。生まれてからずっと兄だと思っていたんだ。そして、これからも。
「…兄貴は、兄貴だから」
なんとなく気恥ずかしくてそっぽを向いていると、優しく抱きしめられた。耳元で小さく「ありがとう」と囁かれて、くすぐったさに身をよじった。
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