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「おふくろの親友に和美(かずみ)っていう人がいたことを聞いたことないか?」
「母さんが病弱って言ってた人?」
「そう」


 和美っていう名前は聞いたことがある。母さんがよく俺に話してくれた。昔馴染みで、幼い頃から身体が弱かったらしい。ずいぶん前に亡くなったらしいその人のことを、母さんはよく懐かしそうに目を細めて話してくれたから覚えている。


「端的に言うとその人が俺の実の母親。父親は俺が生まれる直前に交通事故で亡くなったって聞いた。母親は俺を生んですぐに衰弱死したらしい」


 なかなかにディープな話のはずが、淡々と表情を変えずに言うものだから反応に困る。


「なんで母さんが引き取ったんだ?」
「親族は俺が両親を死なせたと言って良い顔をしなかったんだと」


 「確かに俺が奪ったようなもんだしな。特に母親は」と兄貴はこともなげに言い放った。俺はなんと言えばいいのかわからなくて、だけど兄貴のほのかに寂しげな横顔を見てしまっては放っておけなくて白衣の裾をキュッと掴んだ。
 兄貴はそんな俺の行動に目を見開いたものの、すぐに淡い微笑を浮かべた。


「そこでおふくろが名乗り出て、強引に俺を引き取ったんだとさ。良はその数年後に生まれたからなあ。知らなくても無理はないだろ」

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テーマ「人外ファンタジー」
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