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「んじゃ、俺は退散ってことで」
桃真さんはヒラヒラと片手を振りながらその場を去っていった。気を遣わせちゃったかなあ。でも今ここで兄貴と話さないとこの先真っ暗になってしまうだろうから有り難い。素直に感謝しておこう。でも噛まれた恨みは忘れないからな!
「…良」
「なに」
兄貴に名前を呼ばれて返答したけど思いのほか冷たい声になってしまった。たぶん、頭では理解していても心ではまだ受け入れられていないんだと思う。
兄貴を受け入れたくないわけじゃない。それは断言できる。きっとどう対応すればいいのかわからないだけ。
「悪かった。こんなタイミングで言うべきじゃなかった」
心の底から済まなさそうにする兄貴に胸が痛んだ。ああ、やっぱり俺と兄貴は血の繋がりがないんだなあ。改めて突きつけられるとキツいものがある。知らずのうちに手を堅く握りしめていた。
「―――俺はお前の本当の兄ではない」
こういう時ってどうすればいいんだろう。ドラマの中の話でしかなかったのに自分に降りかかるとなるとまるで別物だ。
ゆらり、揺らいだ視界に俺とは似ても似つかない端正な顔立ちが映りこむ。まじまじと見ると本当に似たところが一つもない。今まで疑わなかったことが嘘みたいだ。
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