45 変×2



「―――ょう、良っ!どこだ!!」


 焦った声が不意に耳に届いた。


―――兄貴だ。


 この時、気まずさやなんやらは完全に放棄した。


「兄ちゃん、助けて!!」
「!ここかっ」


 現れた兄貴は俺の現状を見て目を細めた。次の瞬間、桃真さんに狙いを定めて蹴りを繰り出した。


「おっと」


 だけど桃真さんはひらりと軽い身のこなしでそれをかわす。あの巨体でどうやってあんな俊敏な動きが出来るんだろう。って、そんなこと感心してる場合じゃなかった!
 桃真さんが兄貴のキックを避けた時に出来た隙に、回収される。兄貴の片腕が俺の腰に回された。この安心感は他の人には感じないんだろうなあ。


「あんたが良の兄貴か?」
「それがどうした」


 ギンと睨みつける兄貴など気にもせずに桃真さんは手をひらひらと振った。なんという余裕。俺が桃真さんの立場だったら固まってしまうに違いない。


「ちゃんと話してあげろよ。あんまり他人の事情に首突っ込みたくはねぇけどさ」
「…分かっている」


 兄貴は小さく舌打ちして俺を見下ろした。たとえ血が繋がっていなくても、俺にとって兄貴は兄貴だ。それには変わらない。そう結論を下した俺はもう、動揺することはなかった。

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