第三者視点
良がいなくなった途端太一は翼を見やった。先程までの甘い顔は嘘のように険しい顔で。
「山下ぁ」
「何」
ニコリと、目が笑っていないのが明らかに分かる絶対零度の笑みを太一は浮かべる。
「なに勝手に俺の良に手ぇ出してるわけぇ?」
「お前のじゃないだろ」
「ふぅん、そんなこと言うんだぁ」
黒い空気が溢れ出す。それに当てられたいつもなら頬を染めるチワワ達や、まだ残っていたクラスメイトが慌てて退散する。
翼は負けじと爽やかな笑みを向けた。対して太一は舌打ちをする。
「ああゆーとこが良のいいとこだけどぉ」
じろりと翼を睨み付ける。
「悪い虫を寄せる原因でもあるよねぇ」
「その中に木村も入ってるだろ?」
「…ほんっとお前嫌いぃ」
「気が合うな、俺もだ」
「坂井に言われたことだし、俺部活行ってくるから」
太一の返事を待たずに鞄を引っ掴んで教室を出て行った。残された太一は苦々しく顔を歪める。
「調子に乗りやがって」
誰もいない教室の空気を震わせた声音は恐ろしく低く冷たかった。
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