ごちゃごちゃ | ナノ


▼ Woman alchemist2

「…ゆめ」

 ぼんやりと見慣れた天井を見つめる。
 あれはやはり夢だったのだ。しかし、夢にしてみれば鮮明に覚えている気もするが、まあ気のせいだろう。
 わたしは体を起こして伸びをした。
 窓を見れば薄っすらと空が朱色に染まる様が見えた。丁度朝焼けの時間である。
 いつも通りの時間に起きれたことに満足して静かに息を吐き出すと、音を立てないように毛布から抜け出す。
 時期的には過ごしやすい気温ではあるが、夜明けだとまだ少し肌寒い。椅子にかけてあった上着を羽織って周りを見渡した。
 暑かったのか毛布を蹴ってしまっている子ども、逆にまるまっている子ども、大の字で寝ている子ども。年恰好のバラバラな、しかし一様に未成年の子どもたちが広い一室に雑魚寝している。
 ここは、古びた教会を改装した孤児院である。わたしも例にもれず、この孤児院の一員。
 今年で15歳になる。成人を控えているのだが、成人後どうするかはまだ決めていない。やりたいことが見つからないのだ。この先、わたしはどうなるのだろう。
 孤児院の子供たちは、血はつながっていなくとも大切な弟妹だ。このまま孤児院に残り、面倒を見るのもひとつの手だと孤児院の責任者の爺さんは言う。それでも構わないと思う。でも、何かわたしにしか出来ないことがあるんじゃないかと夢見る。ただの願望だ。
 わたしは薄暗い台所に立ち、ランプに火を灯し手元を照らす。かわいい弟妹たちのために、栄養のある朝ごはんを作ってあげなくては。



「カーネリアン!」
「おう。坊主どうした」

 洗濯物を干している途中、来月で12歳になるオニキスが駆け寄ってきた。振り返って彼の姿を認め、目を細める。オニキスはわたしの「坊主」発言に激昂して顔を赤くした。

「坊主じゃねぇ!」
「いひゃいいひゃい」

 オニキスは背伸びをしてわたしの両頬をつねってきた。その怒り方がかわいいというのに、そのことに気づいてないらへんがますますかわいい。

「で、なんか用事ー?」
「…ジジィが呼んでる」
「爺さんが?なんだろ」
「知らねぇ。書斎に来いってさ」

 ふむ。何かあったのだろうか。
 わたしは持っていた洗濯物が入った籠をオニキスの方にポイッと放り投げる。反射的に受け取ったオニキスに小さく拍手する。昔はよく取り落としていたのに成長したもんだ。

「ちょっと行ってくるわ。それ干しといて」
「へいへい」

 オニキスが素直に頷いたのを見届けて歩き出す。仕事を押し付けられたことに関して文句を言わないオニキスはとても良い子だ。もちろん、オニキスだけでなく他の子供たちも、頼めば快く引き受けてくれる。みんな良い子に育ったもんだ、と内心クスリと笑った。

「あ、下着は置いといてー!部屋干しするから!」
「はいよ」

 伝え忘れていた、と少し離れたところから大きい声を出す。オニキスがこちらを向いてひらりと手を振った。その手に持っている布に見覚えがあったので、ムクムクと芽生えた悪戯心で叫んだ。

「そのわたしの下着もね〜」
「!?カーネリアン!!!」
「あははははっ」

 一気に顔を赤くしたオニキスは持っていたわたしの下着を素早く籠に突っ込んで怒鳴ってきた。思春期の男の子をからかうのは面白い。特にオニキスはからかいやすいのでよくわたしの餌食になっている。
 わたしは爆笑しながら走った。後ろから聞こえてくる怒鳴り声のなんと心地いいことか(悦)。

「…俺、なんであんなやつのこと好きになったんだろ…」

 後方で顔を赤く染めたオニキスがポツリと零した言葉に、わたしは当然気づかなかった。

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