ごちゃごちゃ | ナノ


▼ Woman alchemist

 夢の柔らかな波に身を任せていた。
 ああ、わたしは夢を見ているのだな、と自覚できるほどの浅い眠りの中で、声が響き渡る。

【汝、力を求めるか】

 変声期前の少年のような声だ。姿は見えない。
 耳障りではないアルトの声が、再びわたしを揺らす。

【汝、力を求めるか】

 その声を聞いたわたしは、一言。

「うるさいですよ」
【ええ!?】

 折角気持ちよく眠っているのに、起こさないでほしいものです。声の主が驚いているみたいだけど、わたしには関係ありませんよね。スヤァ…。

【待って!起きて!】
「なんですか、人が寝ているのにうるさいですね」
【ごめんなさい…】

 あら、意外と素直なんですね。じゃあそういうことでわたしは寝るとしましょ【お願いだから起きてくださいお願いします】

「…仕方ないですね。で?」
【"で?"って…口悪いよ】
「おやすみなさい」
【ごめんなさい!説明させていただきます!】

 本当に鬱陶しいですね。一体何の目的があってわたしの健やかな眠りを妨げるのですか。場合によっては殴りますよ。

【怖っ!?君、女の子の癖に物騒なこと言っちゃ駄目だよ!】
「口に出てましたか。すみませんがそういうことなので手短にお願いします」
【訂正はしないんだね…。このままだと怖いから本題に入るけど、君、錬金術(アルケミー)に興味ない?】

 ん?錬金術?
 わたしは闇の中で首を傾げた。
 錬金術アルケミーに興味ないか否かと問われれば、もちろんある。しかしそれがどうしたというのだろう。

【この世界には多種多様でファンタジーな職業が沢山あるのはいいんだけど、錬金術って、ぶっちゃけ廃れてるじゃない?剣に生きるために騎士、派手な魔法を使いたいから魔法使いになるっていうのが定着しちゃって、錬金術師(アルケミスト)っていうのは今すごく少なくなってる。でも、僕の主マスターがそれを不満に思ってるんだ。そこで僕が素質がありそうな、かつ、成長を期待できそうな君に声をかけたってわけ】
「…ひとつ質問しても?」

 声が促してくれたので遠慮なく聞くことにする。
 まず、そもそも。

「あなた誰ですか」
【………】

 なんとなく雰囲気で呆然としているのがわかる。たぶんこれはすっかり忘れていたとかいうパターンだ。

【…僕は、ううんと、君の概念でいうところの神の遣いだよ。僕の主っていうのが、この世界を作った神。わかりやすく言うと創造神だね】

 これはまた大物が出てきた。夢にしてはなかなかのスケールの大きさですねぇ。むしろ夢だからこそ突拍子がないんだろうけど。

【簡単に言うとね、この世界の創造神であり僕の主マスターが錬金術師が少ないことが嫌だからって僕に適当な人間を見繕ってこいって無茶ぶりしてきたんだよ。まったく迷惑な主だ。で、その生贄に君、カーネリアンが選ばれた】
「随分な物言いですね」
【気のせいだよ。話を戻すけど、どう?今なら出血大サービス!特典もつけるよ】

 どこのセールスマンだ。

「わたし、ただの町娘ですよ。しかも孤児。そんなわたしが錬金術なんて高尚なことできるはずがありません」
【大丈夫。そのへんは僕が手配する。それに】
「?」
【いや、なんでもないよ。とにかく!錬金術に興味があるかないか、やってみたいか否か。それだけでいいから答えてほしい】

 考えるまでもない、その問いかけ。
 わたしは姿なき声に応じた。

「もちろん、やってみたいです」

 途端、意識が薄れる。
 柔らかい波が押し寄せて、眠気が突如わたしに襲いかかった。

【我、汝に力を与える】

 闇の空間が眩い光に包まれ、瞼を焼いた。
 意識が完全に落ちる寸前にかすかに少年の感謝の声が聞こえた気がした。

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