予測不可能物語 | ナノ


▼ 002

「名前は」


 少年はその問いにハっとして居住まいを正す。この男から不機嫌さとは別の、近寄りがたい、一種の威圧のようなものを感じ取ったからだ。自然と背筋が伸びる。
 受けたことのない眼差しに体が震えた。見下したような、蔑んだようなそんな目に、少年は出会ったことがなかった。この男がその悪感情を隠そうとしていないのも原因のひとつだろうか。


「な、七色海です…」
「ナナイロカイ?」
「カイ・ナナイロです、名前はカイ」


 少年は慌てて言い直した。この見るからにガイコクジンな男には、姓名という順に馴染みがないのだろうと英語圏の名姓の順に名乗り直す。すると男は不思議そうな表情になった。


「お前、貴族じゃないのか」


 男は聞いたことのない姓に呟いた。カイが「貴族?」と再び首を傾げるのを見て、男は僅かに表情を和らげた。


「俺はヴァンだ」
「ヴァン、さん?」
「ああ。ところでお前迷子だろう、送ってやるよ。どこだ?」
「えっと…」


 男、ヴァンの親切な言葉にカイは困惑した顔になる。当然だ。そもそも"ここはどこわたしはだれ"状態なのだ。その様子にヴァンは首を捻る。


「あの、ここは日本でしょうか」


 カイは恐る恐る尋ねるが、答えはとうの昔に知っていた。冷静に考えれば考えるほどすべてが可笑しいことに気づいていた。


「ニホン?ここはリュミエール王国だ」
「そう、ですか」


 聞いたことのない国名にカイは肩を落とした。カイは今までの記憶を手繰り寄せようと思考を巡らせる。


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