予測不可能物語 | ナノ


▼ 001

 6、7歳の少年が無言で立っていた。少年は艶やかな黒髪をサラサラと風に靡かせ、一見漆黒にも見える深緑の元々大きな瞳を零れ落ちそうなほど瞠っている。陽の光を知らないかのような透き通る白い肌によく映える、口紅を塗ったのか疑うほどに赤い天然の唇を可愛らしく開けている。
 呆然としていた少年は我に返ってゆっくりと周りに視線を巡らせた。視界に映るのは草木の緑と色鮮やかな数多の花。どこか異国を思わせる光景に、少年は唇を震わせた。


「ここは、どこ…?」


 発せられた声は子供らしい甲高いものではあるが、決して耳障りなどではなく凛としていてどこか甘く妖しい。そんな聞いた者を恍惚とさせる声音が少年自身の鼓膜を震わせた。


「え」


 少年はどこか違和感を感じて視線を落とす。自分の声はこんな声だっただろうか、と。するとそこには子供独特の柔らかい小さな手の平があった。少年は驚きに目を見開く。


「な、んで!?」


 悲鳴に近いその言葉を吐き出した少年に、後ろから声がかかった。


「何だお前、迷子か?」


 大人の男性の低い声音に少年は振り返った。そこには案の定男が立っていたが、その男の髪と瞳の色彩が美しいエメラルドグリーンであり、その上その色が人工的なものでは決してないことが少年には分かった。しかしそれ以前に男の造形の美しさに少々見惚れる。男もまた少年の美しさに驚くがすぐさま顔を顰めた。


「どこの貴族だ」


 一段と低くなった声が少年の耳に届く。少年が首を傾げるのを見て、男は舌打ちをした。

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