いつしか | ナノ


▼ 5つ

 椿は嫌な汗をかいていた。決して暑いからではない。その他にれっきとした要因があった。

「…あのね」
「なんだ」
「あーんはどうかと思うのですよ」


 男の弁当を挟んで向かい合い、なぜかこの不良は椿に口を開けろとせっついていた。なるほど、わからん。


「仕方ねぇだろ。箸これしかねぇんだから」
「いやー。だからといってあーんはどうかと」


 男子高校生2人があーん、だなんてどこかの腐女子の格好のネタじゃないか。椿は今すぐこの場を逃げ出したかった。しかしこの不良はそうはさせてくれない。
 逃げ腰の椿の腕を掴んで引き寄せる。逃走は出来そうにない。妙に強引でオカンなこの不良男子のことだ、やすやす逃がすはずもない。


「いいじゃねぇか何が不満だ?」
「何って全部?とゆーより恥ずかしいんですよー」
「役得」
「このどSめが」


 無駄な攻防をするのも面倒になって、溜息をついて大人しく口を開けた。これ以上時間を無駄にスルのももったいない。結局は離してくれなさそうなのだから、諦めた方が早いと判断した椿はなかなか鋭い。
 そうこうして食べ終わるとチャイムが鳴った。椿は三分の一ほど食べて、残りは劉牙の胃に収まった。


「先輩教室に戻らなくてもいいのー?」
「俺が大人しく授業に出るとでも?」
「有り得ないねぇ」
「即答か。せめて一拍置け」


 このピアスじゃらじゃらの不良が大人しく授業を受けているところを想像してみる。が、一瞬で消し去る。そこにいるだけで威圧感を放って、クラスメイトと何よりも教師がかわいそうだった。


「お前の方が大丈夫なのか」
「僕は常にサボってるとゆーか公認だからall OK!」
「進級出来るのか」
「酷いよーわたり先輩」


 真剣な顔で返されて、少し怯む。なまじ美形なだけあって迫力が増すのだ。そして何げに酷い言われようである。


「僕は勉強しないだけであって出来ないわけじゃないもん」
「マジか」
「マジもまじ。本気だよん。何、疑ってらっしゃるのー?担任から天才クンってあだ名で呼ばれるんだからね」
「その担任面白いな」
「でしょ?楽しいんだよー」


 同意を得られて椿は嬉しそうに頬を緩ませる。ああ、なんだか、この男の傍は居心地が良い。そう思わせる雰囲気が劉牙にはあった。

prev / next

[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -