優しい黒魔女 | ナノ


▼ 007

「お前も中々ガードが固いよなぁ」
「…私なんかよりももっと素敵な人がいるでしょう」
「俺はマイコじゃないと愛せないと言っているだろう?何度言わせる気だ」


 恨めしげに吐かれた声は、甘い響きも存分に含んでいてマイコは頬に朱を走らせる。それを隠すように困った顔で彼を見上げた。


「私は一生独身を貫くの」


 彼女は既に決意していた。グラジオラスに恋愛感情に似た想いを抱いてはいるが、彼と共にすることは出来ない。
 マイコは畏怖の対象である魔法使いだ。膨大過ぎる魔力によって人々からは恐れられ、「黒魔女」と裏で呼ばれているのも知っていた。この世界の異分子なのだ、マイコは。
 自分のせいでグラジオラスを悪く言われるのだけはどうしても許せないのだ。それが、この6年間彼の好意を受け取らない理由。しかし彼も馬鹿ではない。彼女の考えていることなどとっくに勘づいている。


「懸念は要らないと思うが」


 承知の上で、それでも彼は押しつけない。その優しさに甘えている自分を嫌に思いながらも、止める事は出来ない。嬉しいような、そうでないような不思議な感覚を振り切って、マイコはリュックから薬の入った大きな袋をカウター越しに手渡す。
 その際に指先が触れたと思うと、グラジオラスは手首を掴んで強めに己の方へ引っ張った。突然の奇行に驚いた彼女はされるがままで、その様子に満足げに笑んだ彼はしなやかな指先に口付けた。


「そろそろ恐れるのは止めたらどうだ?」
「お、それる…?」


 思わず声が掠れる。彼が何を言わんとしているのか、見当もつかない。


「…こう見えて俺は執着が強い性質たちでな。本気だってことを覚えておいてくれ、マイコ」


 ふ、と目を柔らかく細めてそう言い放ち、もう一度指先に唇を寄せた。そこからじわりと熱が侵食してくるような何とも言えないぞわりとした感覚に襲われる。
 その後すぐに呆気なく離された手を胸元でぎゅうっと握り締め、呆然とグラジオラスの赤い瞳を見る。だが既にいつも通りの飄々とした表情の彼がいて、マイコは更に混乱を極めた。


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