優しい黒魔女 | ナノ


▼ 056

 自然魔石を麻袋一杯になるまで詰め、マイコとグラジオラスはクロッカスの館へと戻ってきていた。一度目は不気味そのものだったが、二度目になると慣れたものだ。マイコは何の感想も持たずにグラジオラスが差し出してきた手に自分の手を躊躇いなく重ねた。館の中はバッカリスが多少片付けたせいか先程よりもましになってはいるものの、未だに足の踏み場がない。すべて綺麗に片付けようと思ったらどれだけの時間を費やす羽目になるだろうか、と考えると途方に暮れる。
 ひょいと部屋から顔を出したバッカリスは相変わらず柔和な笑顔を浮かべていた。


「ああ、帰ってきたんですね。お帰りなさい」
「…ただいま?」


 これは「ただいま」と言っていいものなのか、どうなのか。一瞬悩んだマイコだったが深くは考えずに反射的に返事をした。一応先程帰ってまた来たのだから間違いではないか、と自分の中で納得する。
 その前にツッコミを入れたいのはバッカリスの格好である。この世界では何と呼ぶのかは分からないが、地球―――日本では所謂「割烹着」と呼ばれるものを身に付け、更には頭に三角巾を被っているバッカリス。中身はともかくとして、外見は美青年と呼ばれるバッカリスであるはずなのに、どうしてだか違和を感じない。むしろ似合っているのは、何故なのか。普段からクロッカスの館の片付けをする度にこれを着ているためなのか。マイコは引き攣る頬を抑えて見なかったことにした。


「クロッカスはどこにいるの?」
「先程と同じく客室で優雅にティータイムを楽しんでいますよ」


 そう答えたバッカリスの言葉の端々に皮肉を読み取ったマイコは苦笑する。しかしいつものことであるからか、そうは言っているバッカリスも本気で怒っている風には見えない。やはり仲が良いのには間違いないのだなあと思いつつ、教えてくれた彼に礼を述べて足場に気をつけながら進む。


「ああ、来たか」


 客室に着くと、バッカリスの言う通りクロッカスは紅茶を片手に何か書物を読んでいた。二人に気づき顔を上げる彼女は、やはり美人だ。自分の容貌に無頓着なのはきっと研究者であるせいだろう。


「持ってきたわ」


 グラジオラスが持ってくれていた袋を受け取り、持ち上げてみせる。クロッカスはそれを見て嬉しそうに目を爛々と輝かせた。


「おお!こんなに持ってきてくれたのか」
「どれくらい必要なのか分からなかったから、詰め込めるだけ詰め込んでみたの」
「その言い草だとまだ家にあるのか。そんなにも魔物の森には自然魔石がゴロゴロしているのか…取りに行きたいな」
「それは流石に危険じゃないかしら」


 麻袋を覗き込みニタリと口の端を持ち上げるクロッカスに、マイコは困り顔をする。マイコのように魔力量が無尽蔵にあるわけでもなく、手を見るに剣などを扱っているとも思えない。そんな彼女が単身で魔物の森へと乗り込むのは得策とは言えない。そうマイコは思ったのだが。

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