優しい黒魔女 | ナノ


▼ 004

 翌日、マイコはいつもより少し早めに起きて、昨日の内に書いておいた調合リストをローダンセに渡した。スケトシアには男が起きたらすぐに思念で伝えるように言う。


「オリーブは?オリーブは?」


 自分には何か無いのかとせがむオリーブに苦笑して昨日の晩に大量生産しておいたクッキーを渡した。途端にパァッと目を輝かせる彼女は子供のようだ。
 しかし容姿や話し方に騙されることなかれ。これでもオリーブはマイコが契約する精霊の中で最年長である。大木の精霊だけあって何千年も存在しているのだ。ちなみに精霊は食料を必要としないが食べる事は可能で、甘い物には目が無い。


「みんなで分けて食べてね」
「うん、ありがとう、ありがとう!」


 くるくるとその場で回ってみせるオリーブを微笑ましく眺めて、マイコはフード付きのポンチョを羽織る。この世界では日本と同様に四季があるものの、寒暖の差は小さく過ごしやすい気候だ。今の時期は少し肌寒い為、この薄い桃色のポンチョを愛用している。フードを目深に被って荷物の入ったリュックを背負って、三体の精霊に笑顔で見送られてテレポートした。


 街に入る際に身分証明書を門番に見せてすんなりと通されたマイコは一週間ぶりの人混みに辟易していた。王都である為にやはり往来は多く、彼女は小さく溜息をついてフードを更に深く被る。怪しく見えても、これは外せない。
 何故ならこの世界には黒髪黒目が存在しないからだ。魔力の大きさが大きければ大きい程、黒色に近くなる。しかし近くなるだけであって、純粋な黒というのはいないのだ。
 マイコの知る限り、一番暗い色をしているのは王の側近を務める魔法使いの中で最高位の御方で、確か藍色だったはず。つまり日本ではありふれた色であったこの髪と瞳は目立つのだ。そういう理由でフード付きの服がクローゼットに溢れかえってしまうのは必然なのである。
 一方で一般人はというと、髪や瞳な至極色彩豊かである。染めるまでもなく美しいそれらは、血族などはあまり関係が無くランダムだ。赤、黄、橙、緑、桃色、水色などとカラフルすぎて目に痛い。出来うる限り視界に入れないようにしながら目的地に向かって歩みを進めた。

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