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マイコはグラジオラスと肩を並べて、行きと同じ道のりを歩いていた。何気なく歩調を合わせてくれるグラジオラス。マイコはバレないように小さく息を吐き出した。
ツンベルギアに悟されてグラジオラスのことが好きだと認めたものの、だからといってマイコは何かを求めたいわけではない。ただ、許される限りは隣にいたい。それだけだ。
グラジオラスが公になってはいなくても王族であるという事実は、マイコに決定打を与えた。元々、この世界の住人ではないからと枷をしていたのが、二重になったのだ。許されない関係に胸が痛くなるが、一方でこれ以上距離を縮めないで済むことに安心もしていた。
心中でクスリと自嘲する。どれだけ自分が利己的で自己中心的なのかが露見して、どうしようもない苦さが胸に広がっていく。じわじわと浸食してくる絶望を、マイコは不思議に冷静な心で受け止めていた。
「ねえ、ジオ」
「ん?」
話しかけるために彼の愛称を口にすると苦いものが込み上げてきたが、それには無視を決め込んで手を握りしめた。グラジオラスはフードを被ったマイコを見下ろす。何か様子がおかしいような、とは思ったがそれも一瞬だけだったために気のせいかと納得した。
「バッカリスがどうして精霊…ユズリハに好かれているのか、聞いても良いことなのかしら」
前々から気になっていたことをようやく吐き出すことが出来た。基本的に自由奔放な精霊に好かれる人間は、マイコ自身は除くとして希少な存在だろう。
しかし精霊に好かれる、というのは少し違うのかもしれない。バッカリスの場合、好かれているのはどうやらユズリハだけのようだ。バッカリスが魔物の森で倒れていた際、そのことを教えてくれたシェフレラが彼に好意を持ったようには特に感じられなかった。それを考えると、やはりユズリハに限定されているように思う。そうなると何かしらの理由があるに違いないと、マイコは検討をつけていた。
グラジオラスはしばし考え込むような仕草をする。マイコは彼の動向を見守っていた。
「…俺にもよく分からんが、バッカリスが言うには生まれる前の記憶とやらがあるらしい」
「生まれる前って?」
まさか、前世の記憶があるというのか。そうだとしたら少々状況は違えど、マイコと似たような境遇となる。小さな期待を抱きながらグラジオラスを見やった。
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