優しい黒魔女 | ナノ


▼ (053)

 マイコとグラジオラスが揃って出て行ったのを確認してクロッカスは息をつく。久々に新たな人物と知り合うと多少肩に力が入るものだ。軽く腕を回して振り返ると、バッカリスが甲斐甲斐しく動き回っていた。


「それで?」
「何がだ」


 手を止めずにバッカリスは主語の無い問いを投げかけた。クロッカスはソファーに腰を下ろして残った紅茶を一気に飲み干す。陶器と陶器のぶつかる音がやけに響いて聞こえた。


「自然魔石のことです。また何か思いついたんですか?」
「ああ」


 そのことか、とクロッカスは頷いた。マイコに自然魔石を頼んだのは、傍目からしてよく分からない行動であったかもしれない。ただ魔石関連の事項について思い返していると、不意に何かが引っかかったのだ。
 人工魔石はマイコのような魔法使いが魔力を注ぎ込むのに対して、自然魔石は自然魔力を長い時間をかけて蓄積する。この2つの特性を合わせることが出来るのなら、自然魔力が溢れているのを食い止めることが出来るかもしれない。
 思いつきではあるが、ただの思いつきで留めておくのは性に合わない。生粋の発明家嗜好のクロッカスにとって、血が騒ぐのだ。


「自然魔石は自然魔力を蓄積するものだ。対して人工魔石は魔力を故意に蓄積させる。ひょっとすると基盤が出来た人工魔石は自然魔力を吸収することだって出来るんじゃないかと思ってな」
「なるほど。そういう見方もありますね。もし吸収することが出来て、更に自然魔力の吸収速度を速める魔法陣を組めば」
「ああ、そうだ。世界が救われるかもしれない」


 革命を起こして他国から魔法使いを呼ぶよりも、早道かもしれない。しかし今から研究するには多くの時間を要するだろう。それまでに時間稼ぎをしてもらわなければならない。まあ研究が成功すればの話だが。
 これからまた研究に没頭しなければならない。しかも「出来るだけ早く」といった期限付きの研究だ。追い詰められるほど燃える性質(たち)であるクロッカスは不敵に笑った。


「やって見せようじゃあないか。なあ?」


 バッカリスは呆れたように彼女を見やり言う。


「まったく、自己管理はちゃんとしてくださいよ?」
「聞こえないなあ」


 「聞こえているじゃないですか」と一層呆れの色を濃くした眼差しを寄越すが、クロッカスは平然としている。わざとらしく溜息をついてみるが反応はない。一回りは年上であるのに放っておけない人だ、とバッカリスは苦笑いを零すのだった。

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