優しい黒魔女 | ナノ


▼ 046

「茶をいれよう」
「待て、俺が入れる」


 グラジオラスがクロッカスを遮った。どうしてだか分からず、マイコはキョトリと目を瞬く。不思議そうにしていることに気付いたグラジオラスが補足する。


「クロッカスの入れた茶には何が入っているか分からない。俺もよく実験体にされた」
「じ、実験体」
「私の役に立てることを光栄に思え」
「思えるか!痺れ薬を入れられた日には丸一日動けなかった上に、三日は痺れが取れなかったこともある。毒を飲まされて一週間魘されたことも、副作用で子供の姿になったこともあるんだぞ!?」
「今生きているんだから問題ないだろう」
「問題ありまくりだ!」


 必死な様子のグラジオラスとは対照的に、つんとそっぽを向いて飄々としているクロッカス。グラジオラスの苦労性が垣間見えた瞬間だった。


「兎に角、俺が入れてくるからお前は大人しく座っていてくれ。頼むから」
「はいはい」


 やれやれ、と首を振ってみせて、クロッカスはマイコの正面にあるソファーに座った。軽く目を伏せた後、彼女はマイコを見据えて口を開いた。


「虫がいる」
「え?」
「厄介なものを引っ付けてきたな」


 頭にクエスチョンマークを浮かべたが、すぐにハッとした。クロッカスの言う「虫」は、恐らく追跡者のことを言っているのだろう。今もまだ近くにいるというのだろうか。


「まあ別に構わないが」
「構わないんですか?」
「大した話をするわけではないからな。マイコ、だったか。私はクロッカス・アニエルだ」
「マイコ・サトウです。本日は急にお邪魔して申し訳ありません」
「敬語でなくていい。堅苦しい」


 明らかに年上であるのに、いいのだろうか。そうは思ったものの心底鬱陶しそうに言われては、従わざるを得ない。


「ああ、そうだ。魔物の森に住んでいるというのは本当か?」
「ええ」
「魔物は家に近寄ってこないのか?危ないだろう」
「結界を張っているから大丈夫なの」


 なるほど、とクロッカスは頷いたがすぐに首を傾げる。


「維持するのは難しいのではないのか?」
「魔石を使っているから、そう難しくはないわ」


 クロッカスの言う通り、長い時間結界を維持することは難しい。一度張れば、マイコ自身が解除するまで自然と持続される、ということはない。そのため、使用者が意識して結界に魔力を流し続けなければならないのだ。そうなると、たとえどれだけ魔力が強くとも、寝ている時は無防備になってしまう。そこで登場するのが魔石である。
 魔石とは、その名の通り魔力を秘めた石のことを言う。魔石は自然魔石と人工魔石の二つの種類に分けられる。自然魔石は、長い時間をかけて自然魔力を吸い込み、魔力を持った魔石のことを言う。一方、人工魔石は、魔法使いが故意にある石に魔力を蓄積させたものだ。


prev / next

[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -