優しい黒魔女 | ナノ


▼ 003

「シェフレラ」
「…はい」
「貴女には一週間この家の出入りを慎んでもらいます」
「………」
「返事は?」
「………………はい」


 泣きそうな顔で頷くシェフレラを可哀想に思わなくもなかったが、甘やかしてはいけない。あと一秒でも遅ければ、男の命は危うかっただろう。精霊は人間に対して無関心なので、結界を張っただけマシなのだが、それにしたってマイコの性格を考えればすぐにでも助けに向かう事は分かっていたはずだ。


「反省しなさい」
「…分かりました」


 しょんぼりと頭を垂れてシェフレラは姿を消した。


「あまり怒らないであげてくださいね、主」
「ええ、分かっているわ。でもローダンセ、こんな事が二度と起きないようにするのは、これが一番良い方法なのよ」
「…そうですね」


 ローダンセと呼ばれるのは10歳前後の少年の姿をした水の高位精霊である。困った顔をして笑う彼は愛らしい。


「ところであの人間ですが、相当な実力者のようですけど一体何者なのでしょうか?」
「服から推測して身分が高い事は明らかでしょうね。目を覚まさない内に街に置いて行きたいのは山々なのだけど…」


 そこまで言ってマイコは寝室のドアに目線を移した。服はケルベロスによってボロボロに裂かれて原型を留めていなかったが、手にすれば質が良い事はすぐさま分かった。どうやら厄介な展開になりつつあるようだ。


「怪訝に思われてまたこの森に入られては困りますしね」
「そうなのよねぇ。仕方が無いから起きたら早めに追い出すことにするわ」
「それが適当でしょうね」


 先が思いやられるわ、とマイコは溜息をついた。食べ終えた食器を重ねて流し台に持っていき、腕を捲る。食器を洗いながら明日どうするかを思案する。


(本来は明日が薬の納品日なんだけど、街に下りてる間に目を覚まされても困るものね。でも待たせるのも悪いし…ああ、そうだわ)


「ローダンセ、明日留守番をお願いしてもいいかしら。オリーブとスケトシアも呼ぶから」
「お任せください」


 ローダンセは顔を綻ばせて力強く頷く。マイコに頼られる事が嬉しいのだ。


「オリーブのこと呼んだ?呼んだ?」
「お、お呼びになりましたでしょうか?」


 ふわり、とシェフレラと同じく掌サイズの女の子と15歳程に見える大人しそうな女の子が現れた。くるくると喜色を全面に出して回るのがオリーブ、頬を染めて照れたように微笑むのがスケトシアだ。オリーブは大木の精霊で、スケトシアは癒やしの精霊である。


「明日私は街に行かないと駄目だからその間お留守番をしてほしいの。平気かしら?」
「平気、平気!」
「は、はい、大丈夫です」
「本当?助かるわ」


 気の良い返事にマイコは笑みを浮かべた。本当に良い子達だ。


「ローダンセはいつも通り飲み薬の調合をお願いね。後でリストを纏めておくわ。オリーブは薬草を摘んできてほしいの。随分回復系の薬を消費しちゃったから、出来るだけ多く取ってきて乾燥させておいてね。スケトシアは怪我人の具合を確かめて、必要なら処置しておいて。空いた時間は塗り薬の調合をお願い」
「了解しました」
「分かった、分かった!」
「は、はい」


 頷く彼等の頭を撫でていく。それぞれに嬉しそうにする様子は可愛らしい。ほのぼのとした空間が出来上がっていた。

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -