優しい黒魔女 | ナノ


▼ 043

「まあ、会えば分かりますよ」
「個性派とだけ言っておく」


 そう言っている本人も相当な個性派だと思うけど、という言葉は胸にしまった。
 他愛のない話をしながら、三人は郊外に出る。そして着いた先は、まさに童話や御伽噺の中から飛び出てきたかのような白亜の洋館だった。しかし、綺麗だとか美しいだとかいう感想を持ち合わせることはなく、むしろ、どこか不気味にさえ思えた。中には幽霊か、もしくは魔女でもいそうな雰囲気を醸し出している。
 そこまで考えて、苦笑した。魔女というのは有り得ない。自分こそがそう呼ばれている人物なのだから。自嘲めいたその笑みを浮かべたのは一瞬だけであった。そのため、グラジオラスとバッカリスが気付くことはなかった。


「ここがクロッカスの家だ」
「なんていうか…」


 正直に言っていいものかどうか判断しかねて口篭る。バッカリスが笑ってマイコの言葉を引き継いだ。


「不気味でしょう?」


 グラジオラスは無言で首を縦に振る。その様子を見やって、マイコは困ったように曖昧な微苦笑を顔に貼り付けた。


「外もそうだが、中も凄いぞ」「一体何があるの?」


 疑問には答えないで、グラジオラスとバッカリスは門をくぐり洋館の扉を豪快に叩いた。暫く経っても扉が開くことはなく、頭に更なる疑問符を浮かべる。
 グラジオラスは「またか」と眉根を寄せて呟いた。深く溜息を吐いた彼は、何の躊躇いもなく扉を開けて中に入る。バッカリスに続いてマイコも中へと踏み出した。
 中の様子を見た刹那、絶句する。視界に入るのは崩れかけた本のタワー、タワー、タワー。中にはもう崩れかけてしまって、本が雪崩になっているところも見受けられる。更には見たことのない魔具が大量に床を占領している。錆びた匂いと、古い本独特の匂いが鼻腔をくすぐった。「足の踏み場がない」とはまさにこのことだ。


「歩けるか?」
「…ええ」


 差し出された手に自分の手を重ねる。ここはグラジオラスに支えてもらわなければ、容易に進むことが出来ないだろうことは簡単に予測がついた。


「踏まないように注意して下さいね。普段自分は雑に扱っているのにも関わらず、他人に触られると激怒するんですよ、あの人」
「王城にもないような貴重な蔵書も多いからな」
「…気をつけるわ」


 本好きであるマイコは、足元に散乱した本の価値を知り、顔から血の気を引かせた。下手をすれば数百万の価値がつく蔵書なんてザラにある。そのような貴重な本を、こんな風に雑に積み上げられているのを見ると、なんとも切なくなってくる。と同時に、読みたいという欲望もまた生まれた。
 新しい知識を得るには、本を読むことが一番手っ取り早い。生の情報も大切ではあるが、まずはそれなりの知識を叩き込んでいなければ意味のないものとなって持て余してしまう。もしも機会があるのなら、読んでもいいか尋ねてみよう。

prev / next

[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -