優しい黒魔女 | ナノ


▼ (041)

 マイコちゃん達が帰った後、一息つくために紅茶を入れる。店内で飲食するのは普通駄目なんだろうけど、店兼我が家であるから今更気にしない。先日客の一人からいただいたケーキを皿に盛り付ける。ついでに苺を無造作に転がす。泡立てた生クリームをトッピングすれば出来上がり。


「カーラ、ケーキ食べる?」
「うん!」


 装飾関係の専門書を読んでいた愛娘は、パッと顔を上げて嬉しそうに頷いた。可愛いものは実を言うと嫌いだった。だけど自分の血が受け継がれているこの子は、純粋に愛でることが出来る。それはとても尊いことだと知っている。好きでもあり、嫌いでもある可愛いもの。良くも悪くも、今のあたしを支えているのは確かだった。


「お母さんについて何も言わなかったわね。いいこ」
「うん」


 褒めればふんわりと笑うカーラ。この子は、可愛らしい外見をしているくせに、中身は母親に似て策士だ。でも、そんな聡い娘もまた愛おしい。


「シャドー」


 そう言えば音もなく現れた闇に溶けたような黒尽くめの男。顔でさえ黒い布で覆っているために、赤い目だけが奇妙に浮いて見える。顔の造形からして整っていることは職業柄分かるが、素性は知れない。別に知らなくともあたしには関係のないことだから構わないけれど。


「動きは?」
「変わらず。近い内、第一国王軍隊長と接触するだろうと予想される。後の研究員との面会については後ほど報告する」
「あの方はどうしてるかしら?」
「あれも変わらず」


 「そう」と答えて紅茶を一口飲む。漸く歯車が動き出した。


「カーラはあの人、嫌いじゃないよ」
「ふふ、あたしもよ」


 カーラがなんでもないことのようにサラリと本音を零した。
 黒魔女と呼ばれる、異質な存在。薬にも毒にも成りうる彼女は、嫌いな人種ではない。あの迷いのない強かな光を宿す黒い瞳は綺麗だと思う。マイコちゃんは頭が良い。そうでなければ今頃殺されているか王城で手篭めにされているだろうから。そして、運も良い。つくづく、面白い人だ。


「利用価値の有無に関わらず、面白いわ」
「これからが楽しみだね」


 にっこり笑うカーラにつられて私も笑う。
 あらやだ、この子本当にお腹真っ黒になったわね。一体誰のせいかしら。あたしのせいでもあるけれど、一番は妻ね。間違いないわ。


「とりあえず、王城に行って知らせておいてくれる?始まることを」
「御意」


 シャドーはそう残して、現れた時と同じように消えた。
 さあ、楽しくなってきたわ。どう出るのか、楽しみで仕方がない。どうやらそれはカーラも一緒のようで、残酷さを無邪気な笑顔で覆い隠していた。

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