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「お父さんがね、マイコちゃんを測ってきなさいって」
「…お父さん?」
「…詐欺だろ」
「…嘘でしょう?」
上からマイコ、グラジオラス、バッカリスの順である。カロリーヌはキョトンと首を傾げている。当の本人、ミナーゼは気にした風もなく紙に羽ペンを走らせている。
「ミナーゼさん、カーラちゃんって」
「あたしの娘よぉ。可愛いでしょ?…どうしたの、そんな顔して」
一旦手を止めて三人を見やる。不思議そうに首を傾げるが、しかし、筋肉隆々のイイ年した男がそれをしたところで可愛いと思う要素が見当たらない。女装しているのなら尚更。
確かに、よくよく見ればミナーゼも顔立ちは悪くない。良い意味で男臭く、普通の格好をしていればそこそこモテるだろう。だが、美少女という言葉がピッタリなカロリーヌと血が繋がっていると言われても疑問しか生まれない。母親似なのだろうか。
「あの、失礼ながら奥様は?」
「仕事でいないわよー。会えるのは一週間に一度。忙しい人なのよ。とっても美人なのぉ」
男色ではなかったんですね、とは言わなかった。言えなかったともいう。主にグラジオラスとバッカリスに被害が行きそうだったからだ。
「奥方とはどのような経緯で?」
しかし好奇心が疼いたらしい。バッカリスが思い切って尋ねた。
「出会いは仕事関係よ。あたし、一目惚れされちゃってねぇ。最初は断ってたんだけど、痺れを切らした彼女に襲われちゃって。”既成事実作っちゃえば逃げられないわよね”って、そのままパックリ。流されたあたしもあたしだったけど、それでうっかり好きになっちゃって」
その流れで結婚したのよ、と笑うミナーゼ。中々ディープな話である。マイコはなんと言えば良いものかと思いあぐねる。
「人間、ギャップに弱い生き物ってことを痛感したわ。大人しそうな外見に騙されたのよね」
朗らかに笑うミナーゼからは、パートナーを愛しく思っていることが伺えた。そういう形もあるのね、と感心してしまう。
「奥様のこと、愛していらっしゃるのですね」
「ええ、愛しているわ。勿論カーラもよ」
「カーラもお父さん好きー」
「ありがとう」
にこにこと無邪気に笑うカロリーヌの頬に口付けた。カロリーヌもまたミナーゼの頬にお返しのキスを贈る。
それは確かな絆で結ばれた家族の姿だった。胸が暖かくなるのを覚えながらもどこかが痛んだ。カロリーヌが記憶にある妹と似たような年齢だったからかもしれない。マイコはその痛みに気付かないフリをするのが精一杯だった。
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