▼ 039
「まあ、そうねぇ。乗馬には慣れているみたいだし、馬車とかじゃなくてもいいのなら、あたしの知り合いに安く貸してもらうように言っとくけど、どうする?」
マイコとグラジオラスは顔を見合わせた。
嬉しい提案ではある。しかし安ければ何でも良いというものでもない。騎獣の質が悪ければ意味がない。長い旅になるのだから余計に。
そう思っていたのが顔に出ていたのか、ミナーゼは言葉を続けた。
「ちゃんとした騎獣屋だから心配はいらないわよぉ。質の良さはお墨付き。小さな店だけど、だからこそ世話が行き届いているわ。別にそこで買えって強制しているわけではないし、見るだけ見てみても良いと思わない?」
そう言って茶目っ気たっぷりにウインクしてみせたミナーゼ。三人は若干顔を引きつらせながらも「そういうことなら」と了承した。
「お言葉に甘えて、後日伺ってみます」
「そうして頂戴。店の名前はアルフォンスよ。場所は…そうね、今から地図を書くから少し待っていてくれる?ああ、マイコちゃんは採寸するわね。カーラ、おいで」
彼女(彼)は店の奥に向かって呼びかけた。
「はぁい」
奥から現れた美少女に、息を呑む。
長い金髪は緩やかにウェーブを描いており、歩く度にふんわりと波打つ。澄んだ青い瞳に長い睫毛、染み一つ無い白い肌、ほんのりピンク色に染まった頬に、小さな可愛らしい唇。まさにフランス人形のようだと心中で呟いた。
あまりの美少女っぷりに呆然とするマイコの前まで来た少女は、にっこりと笑って彼女を見上げた。小柄なマイコを見上げる少女はまだ幼い。10歳にも満たないのではないか。
「はじめまして、カロリーヌです。カーラって呼んでください!」
「はじめまして。私はマイコよ。カーラちゃんは幾つ?」
元気の良い挨拶に我に返った。しゃがんでカロリーヌと名乗った少女と目線を合わせて微笑む。
「8さいです」
「そうなの。しっかりしてるわね」
偉い偉い、と頭を撫でてやると嬉しそうにはにかんだ。その可愛らしさに目尻を下げる。
カロリーヌはまさに人形然とした格好をしていた。ふんわりと裾の広がったワンピースにはレースがふんだんに使用されており、スカート部分は三段になっていてボリュームがある。ティペットがアクセントになっていて甘さが更に増していた。靴は茶色のローファーのようなもので、短いレース付きのソックスとの相性はバッチリだ。更に両手で抱きかかえている花柄のファンシーなくまのぬいぐるみがマイコのツボを押す。
カロリーヌがそこにあるアンティーク調の椅子に座ったところを写真におさめたい、などと考えていると、少女がマイコの服をちょいちょいと引っ張った。
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