優しい黒魔女 | ナノ


▼ 038

「ところで貴方達、移動手段はどうするの?」
「騎獣で行こうと思っている」
「そう、騎獣ね。種族は?」
「まだ決めていない」


 ミナーゼとグラジオラスの言う騎獣とは、文字通り人や荷物を乗せるために飼い慣らした大型の獣だ。その中には魔力を保有する魔獣もいる。魔力を持っている分、一般の騎獣よりも格段に速い。ただ、それ相応の値段がするため、貴族が使うことの方が多い。
 二人が話しているのをぼんやりと聞いていると、バッカリスに肩を叩かれた。


「マイコさんって、魔獣に乗ったことあるんですか?まさか、手懐けているなんてことは流石にないですよね…?」


 引きつった顔をする彼を不思議そうに見上げる。


「乗ったことはあるわよ?手懐けるというか…まあ、懐いてくれた子はいるけど。それがどうかした?」
「………ちなみにその魔獣の種は?」
「一番よく助けてもらっているのはペガサスとユニコーンかしら。…どうしたの、皆して」


 マイコの思いがけない発言によって空気が一瞬にして凍った。


「…気性の荒い、というか人物を選ぶ聖獣に乗ったことがあるの?」「ええ、ありますが…」


 それが何か、とミナーゼを見やる。その時バッカリスがわざとらしく咳をした。


「マイコさん、よりによってユニコーンだなんて…。それ、自ら乙女だと言っているようなものですよ」


 ピキリ。今度こそ空気が凍った。マイコは一拍置いて自分の発言に赤面する。


「あ、あのね。否定は出来ないけど、処女しか触れないってわけじゃないのよ?」
「そうなんですか?」
「聖獣は魂が綺麗な者に触ることを許すの。乙女に限るわけじゃないわ。ただ、一度欲望を抱いてしまうと魂が綺麗だとは言えないから、そう一般に言われているだけ」
「つまり、純潔でなくても触れる人はいると?」
「ええ」


 実質、純潔でないとほぼ触れると弾かれるのだが。という事実は伏せておく。これ以上傷を広げるのは本意ではない。たとえ手遅れだとしても。


「マイコちゃん。それ外では言わないようにね」
「…はい」


 苦笑しながらミナーゼが言う。マイコも顔を歪めて素直に頷いた。




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