優しい黒魔女 | ナノ


▼ 037

「やっぱり白にしようかしらん。雪と同化出来るから魔物にも見つかりにくいでしょうし」
「そうですね。白にします。どんな感じになりますか?」
「ちょおっと待ってね〜」


 そう言い残してミナーゼは奥に引っ込んだ。この店ではフルオーダーになる。それなりに値段はするが、彼女(彼)が作る服は丈夫で長持ちするため、量産品よりもはるかに安い買い物なのだ。
 紙と羽ペンを持って彼女(彼)が帰ってきた。その場でサラサラとコートのデザイン案を描き出す。


「ふんわりと女の子らしいデザインが良いわよねぇ。これをこうして…。毛皮は中に織り込んで保温効果を高めるようにするわ。フードも必須よね。ロングコートの方が良いかしらん」
「ロングでお願いします」
「分かったわ。…こんな感じでどう?」


 マイコに差し出されたデザイン画は、ふわふわとした可愛らしさが残るコートだった。袖や裾には抜かりなくレースが書き込まれており、中の構造もしっかりしていてとても暖かそうだ。文句があるはずもなく、マイコは二つ返事で頷いた。


「生地のサンプルはこの3つよ。私はこれが良いと思うんだけど」


 三枚、30センチ四方の布を差し出されてマイコは手触りを確認する。どれも上等だが、一層良いと思ったのは彼女(彼)が示したものだった。


「これでお願いします。あと、出来れば手袋も欲しいんですけど」
「そうね。いっそのこと冬服を一通り揃えたらどうかしらん。マイコちゃんが持っている冬服じゃ、寒いと思うわよ」
「ですよねぇ」


 むぅ、とマイコは押し黙った。
 確かに冬服は持っているものの、ミリテレジアで過ごすためのものだから暖かさは足りないだろう。ミリテレジアは日本と同様に四季があるものの、気温の変動はそこまで大きくない。
 冬になっても日本の秋ほどの気温だ。それ故に、持っている冬服は長袖ではあるものの、そこまで厚さがないのだ。それを考えると、ミナーゼの言う通り一通り揃えた方が良いだろう。魔法を使うことを考えても、暖かい格好をしておくのは得策だ。
 しかし全て揃えるのにはかなりの金額が必要になる。払えないわけではないが、どうしたものか。悩むマイコの後ろから声をかけたのはグラジオラスだった。


「俺が払おう」
「え、でも」
「俺が誘ったんだ。払っても構わないだろう」


 お金があまり無いと言っていたのはグラジオラスではなかったか。首を傾げるマイコに笑いかける。


「それくらいの金はあるさ」
「…じゃあお願いするわ」


 代わりに道中は私が稼ぐから、とアイコンタクトを取る。


「あらあらお熱いことねぇ。王弟様にも漸く春が来たってことかしら」
「ミナーゼさん…」


 「そんなんじゃないですよ」と訂正を入れると、ミナーゼは可哀相なものを見る目でグラジオラスを見た。グラジオラスは内心でやっぱりな、と息をつく。まだまだ恋の道のりは遠いようだ。


「頑張りなさいよ、王弟様。マイコちゃんはかなり攻略難しそうだし苦労するわよ」
「ああ、覚悟の上だ」
「応援してるわ」


 何故か握手を交わす二人に、マイコは何のことだか、と頭に疑問符を浮かべた。

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