優しい黒魔女 | ナノ


▼ 036

 朝早いのにも関わらず、王都は相変わらず賑わっていた。鮮やかな彩色に目をチカチカさせつつ、目的地へと急ぐ。カラン、と涼やかな鈴の音が響くと、中に居た二人の人影が同時に振り向いた。


「お早う、マイコ」
「お早うございます、マイコさん」
「二人ともお早う」


 変わらず質の良い服を着ているグラジオラスとバッカリス。なるほど、王族なのだからそれもそうか。以前感じていた違和感も、彼らの身分を知ってスッキリだ。柔らかい笑みを浮かべる二人には、そう言わずとも品がある。


「先にコートを見に行きませんか?クロッカスを訪ねるのは後でも良いでしょう」
「そうだな」


 バッカリスの言葉にグラジオラスが同意したのを見て、マイコも安心して提案に乗ることにする。揃って店から出、衣服や装飾品などを扱う店が立ち並ぶエリアに移動する。このエリアでは貴族が求めるような煌びやかなものを置いている店もあれば、庶民にとってお手頃な値段のものを置いている店もある。そのため階級は関係なく女性や子供が闊歩している。
 居心地悪そうに身を捩る二人に苦笑しつつ、マイコはお気に入りの店へと向かう。「ミナーゼ」と控えめに掲げられたその店は、クラシック調の落ち着いた雰囲気を纏っている。入り難い空気の通り、ここは常連しか入れない。中に入ればアンティークがそこら中に置いてあり、王都中の店の中でも特に贔屓している店だ。


「あらあ、いらっしゃい。久しぶりじゃないの、マイコちゃん」
「ええ、お久しぶりです」


 奥から出てきたのは、筋肉もりもりの女装した男性。後ろで男性陣がドン引きしているのをひしひしと肌で感じながら、慣れている彼女は平然と返した。
 初見の人はさぞかし衝撃的だろう。雄々しいマッチョな体躯を持った男が、ロリが着れば目の保養になるだろうレースがふんだんに使われたエプロンを身につけているのだ。
 かろうじてスカートではないことが唯一安堵出来るところだ。まあそのズボンもシャツも、ゴスロリのようなものなので…うん。皆までは言わないことにしよう。こういう人種もいるのだなぁ、と初めて見た時は逆に感心してしまった。
 ああ、彼の、もとい彼女の名前は看板の通りミナーゼという。偽名に違いないだろうが。


「今日は両手に華なのねぇ。あらイイ男…って、王子様に王弟様じゃないの。一体どういう繋がりなのぉ?」
「お知り合いですか?」
「よぉく知っているわ。だってアタシ、王族に贔屓にしてもらっているもの」


 グラジオラスとバッカリスは青い顔で視線を逸らしていた。苦手なのね、と思いながらミナーゼに向き直る。


「凄い方だったんですね、知りませんでした」
「別に見せびらかしている訳でもないしねぇ。知らなくて当然よぉ。それにしても目の保養だわぁ」


 恍惚とした表情で男二人をねっとりと見るミナーゼは、誰から見ても変態だった。


「勿論マイコちゃんも可愛いわよ?さて、今日は何を御所望?」
「北へ旅行に行くので、暖かいコートが欲しいんです」
「あらあら、イイわねぇ。コートね、色の希望はあるかしらん?」


 そうですね、と呟いて考え込む。持っている服の色は主に白とピンク、それからブラウンで固められている。どの服にも合う色としたら、何が良いだろうか。


「赤は駄目よ。魔物の的になりやすいわ。でも寒色はマイコちゃんのイメージとは違うのよねぇ」


 一緒になってミナーゼもブツブツと考え込む。


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