▼ (032)
マイコさんに王都の傍までテレポートで送ってもらい、叔父様と共に目についた喫茶店へと向かった。席についてストレートティーを二つ頼むと、ウエイトレスの女性が頬を染めて見つめてきたのでにっこりと笑い返す。面白いくらいに真っ赤になった彼女にクスリと笑みが零れた。
「お前なぁ、その悪癖どうにかしろよ」
「どうしてです?」
「どうしてって…いつか女に刺されるぞ」
「大丈夫です。殺される前に僕が殺すので」
立場上、そして剣技を磨く者として殺気には敏感だ。早々容易く殺されるわけがない。そう言うと彼はわざとらしく溜息をついた。
「お前は本当にやりかねない」
否定せずに笑みを深めれば、代わりに引き攣った笑顔をもらった。もったくもって失礼ですねぇ。僕は女子供だとしても容赦しない。弱い存在だからと言って見逃していたなら今、僕はここに存在しないだろう。送られてくる暗殺者の6割は確実に女子供なのだから、躊躇なんて言葉は必要無い。
「一夜限りの関係でしかありませんし」
「避妊はしているのだろうな」
「当然です。立場はわきまえているつもりですよ」
たとえ、真実は王族ではなかったとしても。子種が出来てしまえば大騒ぎだ。それこそ女と、女の腹にいる胎児を殺さなくてはならない。抵抗がないからといって、斬り捨てることが好きなわけではない。そこまで堕ちていないつもりだ。
「…まあいい。本人がそう言うなら平気だろう。信頼はしているからな」
「ありがとうございます。それにしてもマイコさんって謎めいた方ですね」
脳裏に浮かぶのは到底年上とは思えない、あどけない風貌のマイコさん。しかし容姿とは真逆にかなり使える人物のようだ。ハッキリと筋道の通った意見を述べることが出来、冷静に物事を判断出来る観察眼も持っている。男に警戒心が薄いのはどうかと思うが、自分や叔父様のような特上の美形を目にしてもなんら変わらない態度は素晴らしい。
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