優しい黒魔女 | ナノ


▼ 031

「そろそろお暇する。こいつが世話になったな」
「王都まで送るわ」
「助かる」


 そう言ってマイコも立ち上がる。そしてふと思い出した。


「あ」
「「あ?」」
「あの子はどうするの?ユズリハ、だったかしら。ベッドに寝かしたままだけど」


 すっかり忘れていた、と男二人は寝室に目を向けた。そろそろ起きてもいい頃だ。どうせ一緒に帰るのなら起こした方が良さそうだ。寝室へ向かい、ベッドにスヤスヤ眠るユズリハに眠気覚ましのマホウを施す。むにゃむにゃと唸って起き上がった彼は、本当に人間の子供そっくりで可愛らしい。


「ユズ、起きましたか?」
「…ごしゅじんさま?」
「ほら、帰りますよ」
「けが…」
「大丈夫です。マイコさんに治してもらいましたから」
「マイコ…?あ、みんながウワサしてた!」


 目の開閉をしぱしぱと繰り返していたユズリハがハッと彼女を視界に捉えた。慌てて駆けつけて足元に跪く。


「ぼくのごしゅじんさまを助けてくださってありがとうございました!ぼくはまだ力をコントロールすることができなくて…ごしゅじんさまはあんな目に」

 話しているうちにウルウルと涙を溜める彼に苦笑いを漏らす。マイコは目線に合わせてしゃがみ、少し濁った赤い髪を優しく掻き混ぜた。


「悔しかったね」


 そう言って慈愛に満ちた表情で微笑みかけた彼女にユズリハはぎゅっと抱きついた。その小さな背をポンポンと叩いていると、グラジオラスが感心したように言う。


「慣れてるな」
「年の離れた妹がいたからね」


 そう答えて、6年もの間会っていない妹を思い出していた。
 13歳年下の、可愛い可愛い家族。トリップした当時はまだピカピカの真新しい赤いランドセルを背負っていたあの子も、今では中学生だ。
 突然いなくなってしまった姉を思って泣いてはいないだろうか。笑顔が太陽のようだと言われていた明るいあの子は、ちゃんと笑っているだろうか。きっと、マイコの知らない大人に近づいた顔で、笑っているのだろう。目を細めて懐かしさに浸る。


「…それに、私は向こうで子供に携わる仕事を目指していたから」


 保育士を目指して、大学で日々勉強に励んでいたあの頃が懐かしい。覚えた法律も、今では意味の無いものになってしまったけれど。


「…そうか」


 グラジオラスは何も言わずに頭を撫でた。不思議そうに見上げると、彼の目が思いのほか優しい色を灯していて頬が火照る。二人の甘い空気をモロにくらったバッカリスはやれやれ、とばかりに目を伏せるのだった。


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