優しい黒魔女 | ナノ


▼ 028

「ご主人様、大丈夫ですか?」


 スケトシアが心配げに自分の主を気遣う。当の本人はテーブルに突っ伏して起き上がってこない。マイコをそうした張本人達は優雅にティーカップに口をつけている。


「既に覚悟は出来ていただろう?」
「…いざとなるとやっぱり嫌なものよ」


 呆れたグラジオラスの声に弱々しく返答した。そう、覚悟はしていたのだ。タイムから話を聞いた時、否、もしかするともっと前から予感していたかもしれない。いずれは何かに巻き込まれることに。膨大な魔力を持っていてかつ今まで何も大したことは起こらずに平穏無事に過ごせたのは奇跡なのだ。そのつけが回ってきたと思えば…いや、そう思い込んでも国の反乱に巻き込まれるというのは持て余す。


(だからといって拒否する気も更々無いんだけどね)


 マイコは内心でそう呟いて苦笑した。さて、そろそろ詳しいことを聞かなければならない。もう参加すると決まったのだ。自分のすることを知っておきたい。


「私はまず何をすればいいのかしら?」


 起き上がって姿勢を正した彼女に、グラジオラスとバッカリスは微笑んだ。それは血縁と思えるほど似通った笑みだった。


「他国に協力してもらおうと思っている。俺が自ら出向くつもりだ。それに付き合ってほしい」
「私はこの国を離れることは出来ませんので、その間は魔具屋のオーナー代理を務めます」
「つまり私に各国の交渉と同時に薬を今までと変わらず作れと?」


 「その通り」とでもいうように頷いた二人に溜息を零した。今まででもあまり時間に余裕が無かったというのに、更に時間が無い中で調合しろと言うのか。しかも売れ行きが良好だからと追加注文されたばかりなのに。どうするべきか。顎に手を添えてふむ、と考え込む。
 それなら、いっそのこと精霊達に手伝ってもらおう。作り方は教えているし、必要な薬草類の採取方法も場所も知っている。勿論一度出来栄えを目で確かめなければならないから、毎週テレポートして家に帰らなければならないが、自分で全て作る手間を考えればそれくらいわけない。精霊に負担を掛けすぎるのもどうかと思い、今までは出来る限りのことはこなしてきたが、今回は流石に自分の手に負えない。それに彼らにとって頼るということは至上の幸福であることを知っているので、多少負担を掛けても構わないだろう。
 ちなみに瞬間転移という便利な魔法、テレポートであるが、一度自分が行ったことのある場所でないと使うことは出来ない。マイコは自国から出たことがないため、他国は未知の世界だ。それ故に、「よし、京都に行こう」というノリで瞬間転移は出来ないのだ。便利なんだか不便なんだか微妙なラインである。
 まあ行ったことのある場所ならテレポート出来るので、家に帰ることは簡単である。その点は便利と言えよう。


「精霊達に手伝わせるわ。あとはテレポートを駆使すればどうにかなると思う」
「出来るのか?助かる」


 出来ると思っていなかったのか、と睨むが本人はどこ吹く風である。二人の様子を見守っていたバッカリスがポツリと呟いた。


「テレポート、ですか」
「? それがどうかしたの?」
「いえ、マイコさんは本当に凄い方なのだなぁと思いまして」


 頭上にハテナマークを浮かべるマイコに説明する。テレポートというのは元々無詠唱で出来るようなものではなく、複雑な魔方陣も書かなければならない。それも、大量の魔力と相当の技術が要るために、使える者はほとんどいないのである。かろうじて可能なのは、恐らくマトリカリアだけだろう、と。


prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -