優しい黒魔女 | ナノ


▼ 027

「”王族を生んだ”という事実が欲しかった女は、前王が一度だけ後宮にやって来た日の後に、自分の使用人と性交を幾度も交わして身篭った。女はその後使用人の殺害を暗殺者に頼んだ後、リザリオを生んだ。これに対して疑念を抱いた前王だったが、証拠を見つけることが出来なかった。よっぽどのことがない限り、第一子が跡継ぎと決まっているからどうしようもなかったそうだ」
「じゃあジオは…」
「俺は前王と正妃の間の子供だ。正式な王族だぞ」
「つまり、私は王子でありながらも血族ではないのですよ。叔父様とも血は繋がっていない」


 確かに国家機密だわ、とマイコは内心で納得した。こんなことが国民にバレてしまえば暴動どころではなくなるだろう。ただでさえ現王リザリオに不満を持つ者は多いのだ。彼女はふと考え込んだ。ならその話の中でどうしてグラジオラスの名が上がらなかったのだろう。聞いたのは息子である王子の話ばかり。王弟であるグラジオラスの名前は聞いたことがなかった。何故だろうか?
 疑問に気付いたバッカリスが答えを教えてくれた。


「叔父様の存在は王家から抹消されているんですよ」
「俺は死んだことになっているし、リザリオもそう思い込んでいる。俺が10歳になったばかりの頃、三十路手前だったリザリオは暗殺を企んだんだ。だが、暗殺者はリザリオを裏切り俺を匿った。元々その暗殺者は前王と友人だったそうだ」
「叔父様は強運ですよねぇ」
「…波乱万丈ね」


 思わず、といった風に零した言葉にグラジオラスは苦笑した。バッカリスも同じように微苦笑する。なかなかにディープだわ、と言えば、お前もな、と返された。確かに自分の人生も奇想天外である。


「まあ色々あったが、王城では慕われていたから一部の人間から援助を受けつつ生活している」
「なるほどね。でも、どうしてバッカリス王子と仲良くしているの?」
「バッカリスでいいですよ、マイコさん。私はね、リザリオ・ミリテレジアのことを父と思っていません。憎んでこそいませんが、それと同時に興味も無い。だけど前王に興味はあった。善政を行い賢王と謳われた王について知ろうと思い、情報を集めていれば叔父様に行き着いたのです」
「…よく辿り付けたわね。国家機密なんでしょう?」
「暗殺者一族を脅しました」


 にこにこと笑みを浮かべながらサラリとそう言ったバッカリス。顔が引き攣るのを止められない。暗殺者一族を脅すことが出来るというのならそれ相応の実力が必要だろう。ケルベロスに襲われて瀕死状態ではあったが、精霊達も認めるほどの実力者というのはどうやら規格外なようだ。しかしグラジオラスはそんな彼には慣れているらしく何も言わずに平生(へいぜい)な様子だ。この人も規格外ね、とマイコは遠い目をした。


「中身はアレだが、バッカリスは充分勢力になり得る。味方だからそれなりに仲良くしてやってくれ」
「アレって何ですか叔父様」
「アレはアレだ。性格に難有り」
「これは私の美点ですよ」
「どこがだ」


 仲が良いな、なんて思いつつグラジオラスの言葉に引っ掛かる。勢力?まさか、何かやらかそうとしていないでしょうね。青ざめた顔で男二人を見る。


「それでだ、マイコ。頼みたいことがある」
「逃げてもいい?」
「駄目だ」


 次に続く言葉に、見事に固まることとなる。それは悪魔の囁きよりもタチの悪い話であった。


「内政改革を手伝ってほしい」
「ちなみに拒否権はありませんよ、マイコさん。ここまで聞いたんですから、ね?」


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