優しい黒魔女 | ナノ


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 名の通り魔物がうじゃうじゃ蠢く森、「魔物の森」。当然ながら何の身を守る術を持たない人々はこの森を恐れていた。森に入る者はただの愚か者か、相応の実力を持ち修行の為に訪れる者か。そんな森に一人、風変わりな女が住んでいた。


「こんなものかしらね」


 小柄な女性がふう…とかいてもいない汗を手の甲で拭う。小さな可愛らしいログハウスに住む酔狂な女の名を、マイコ・サトウという。ひょんな事で6年前この世界に落ちてきたれっきとした純日本人である。
 伸ばしっ放しの黒髪は枝毛などといったものは見当たらず、艶掛かっていて美しい。豊かな緩くウェーブのついた髪は白のシュシュで一纏めにされている。黄味掛かった肌はきめ細かく触り心地が良さそうだ。大きな黒い瞳に、ちょこんと添えられた薄桜の唇は啄みたくなる。生憎、鼻はやはり低く彫りの少ない平坦な顔立ちは彼女を地味に見せていた。


「いけない、もうこんな時間」


 擂り鉢の中にある先程擦り終えたばかりの粉末を、零さないように小さな袋に入れて壁時計を見て立ち上がった。朝から薬の調合にかかりっきりで、気付けば昼を過ぎていたのだ。人間の体とは不思議なもので時間を自覚した瞬間お腹が空く。可愛らしい鳴き声で空腹を訴える自身のお腹に苦笑いを零した。さっさと簡単なものを作ってしまおうとマイコはキッチンに立つ。
 この世界は科学というものが存在しない。代わりに魔法が発達している。と言っても魔法が使える人間は極端に少なく全国土から集めても100人足らずで、しかも全員王城で高額で雇われている為、一般に流通していない。魔法使いが魔力を込めて生産した魔具はとても高価で上位貴族しか買えないため、手の届かない庶民は細々と自らの労力で賄っている。
 しかし、マイコは異世界に来た拍子にそうなったのか何なのか、魔法を使うことが出来た。それも魔法使いの中でも群を抜いた魔力を持っており、更には日本に居た頃の科学技術や知恵、ゲームや小説などから仕入れた知識を最大限に利用している彼女には向かうところ敵なしであった。
 そして日常の中にも魔法を取り込むことによって精一杯楽をしているのである。例えば、水道を作ったり(普通は井戸から汲まなければならない)、IH(普通は薪で釜戸に火を起こさなければならない)を作ったりなどと。
 マイコは鼻歌まじりに鍋に水を入れてIHに乗せてスイッチを押す。中に適当な調味料を入れて、ジャガイモや人参、玉葱を投入して蓋をした。昨日焼き置きしておいた食パンをオーブントースタもどきに突っ込む。

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