▼ 026
マイコは必死に動揺を収めようとしていた。ドキドキと速まる鼓動をどうにか鎮めてグラジオラスを見やる。幾分か冷静を取り戻した彼女は、どう出るかと見守るグラジオラスに微笑みかけた。その後ろには黒いオーラを携えて。
「どういうことか、説明してくれるかしら?」
「どういうことも何もただ俺が王族だということ以外に何がある?」
「沢山あるでしょう!あの王と血の繋がりがあるの!?」
「ない」
彼の即座の否定に口をポカンと開ける。
「ないの?」
「ない。長くなるから座って話そう」
「…そうね」
想像以上にややこしい状況のようだった。マイコは嘆息してリビングに促した。三人が椅子に座ると同時にスケトシアがテーブルにハーブティーを注いだカップをそれぞれの目前に置いた。ありがとう、と微笑めばにっこり笑って無言で返した。早速口をつけて気持ちを整える。男二人も同様に一口飲み下した。
「とりあえず、バッカリス。お前はマイコに礼を述べておけ」
「ケルベロスから救ってくれたのは貴女でしたか。命を救っていただきこの胸は感謝でいっぱいです。まさに聖女ですね!」
「………」
もう言い返すのも面倒になったのか半眼でグラジオラスを見やる。「これをどうにかしろ」という視線に気付いた彼は小さく溜息をついた。
「バッカリス。いい加減にしろ」
「はいはい。で、マイコさんは件の黒魔女さんでよろしいのですね?」
「…そうよ」
「噂に違わず可愛らしい御方ですね。叔父様はやめて私にしません?」
「どんな噂よ。ジオも貴方も、共にする気はないわ」
「あらら。フられちゃいましたね、叔父様」
わざとらしく肩を竦める様が似合うからこそ苛立つ。中身はともかくとして、容貌は柔和な美青年なのだ。垂れ目のすぐ傍にある二連の泣き黒子もまた妖艶さを醸し出している。が、それとマイコがときめくかは別問題である。というよりもむしろこういうタイプは苦手だ。
「話を戻してちょうだい」
「ああ。今から話すことは国家機密だから他言無用だぞ」
「分かっているわ」
王族に関する話だ。それくらいは覚悟は出来ている。慎重に頷いたマイコに、グライジオラスは小さく疲れた笑みを浮かべた。
「端的に言おうか。リザリオ・ミリテレジアは王族の血を引いていない」
「………え?」
「リザリオは、前王のある側室と、その側室の使用人との間に出来た子供だ。断言は出来ないが、ほぼ確定している事実だ」
なんなんだこの展開は。マイコは痛む頭を押さえた。そのリザリオの息子であるバッカリスはというと平然とした様子で優雅な仕草でティーを飲んでいる。ということは前々から知っていたということか。
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