優しい黒魔女 | ナノ


▼ 024

 マイコは身分証明書を、入る時と同じように門番に見せて王都の外へと出る。グラジオラスもそれにならって門をくぐった。彼がついてきていることをちらっと確認して考える。
 テレポートを誰かと一緒にしようとするならば、その相手の体のどこかに触れておかなければならない。さて、普通は肩が一番良い方法なのだが、身長差のせいでそれは辛い。届かないこともないが、不格好になるのは間違いないだろう。なら後は…。
 そう考えてマイコは彼の手を取って握り締めた。突然のことにぎょっとしたグラジオラスに簡潔に説明する。なるほど、と頷いた彼は何を思ったのか彼女の手を握り直した。指と指を絡める、所謂「恋人繋ぎ」である。


「なっ」
「役得だな」


 ほんのりと頬を染めながら、何かを言おうとした口を閉ざして顔を逸らした。ニヤニヤと笑う彼は意地が悪い。これくらいで、などと思われるかもしれないが、マイコは恋愛事にはとんと弱い。彼女は元々それなりに裕福な家庭の生まれで、中学高校と共に女子校だった。大学もまた女子大学に入っていたため、男に免疫がない。
 ここまで言ってしまえば誰しも分かってもらえるだろう。マイコは男性とお付き合いをしたことがなかった。人並みに恋愛というものをしてみたい気持ちはあったものの、それはほぼ興味に近く、出会いがなければそれでいいかと思っていた。
 …異性と手を繋ぐなんていつぶりだろうか。幼稚園以来ではないだろうか。そこまで考えてハッと我に返る。


「い、行くわよ」
「ああ」


 クスリと小さく笑うのを軽く睨んで、自分の家を思い浮かべる。いつも転移する時よりも意識して魔力を引き出す。ふわりと柔らかなクリーム色の光に包まれる。


「テレポート」


 呟くと景色がグラリと歪み、気が付けばログハウスの前に二人手を繋いで立っていた。初めての体験に、グラジオラスは感嘆の声をあげる。


「魔法ってこんな感じなんだな」
「? 今まで何度も見たことあるでしょうに」
「見たことなら、な。だが自分で体感するのは初めてだ。それにお前が使う魔法は攻撃魔法が多いからな」
「…確かにそうね」


 初めて魔物と呼ばれるものに出くわした時には、パニックに陥って過剰な魔力をぶっ放して一面を焼け野原にしてしまったし(その後はちゃんと時間を巻き戻して草木を元通りにした)、身長を優に超えたG(黒い物体X。口に出すのもおぞましい)にはあまりの気持ち悪さに隕石を直撃させてクレーターを作ってしまった。他にも、空を飛ぶ魚(かなりレアな魔物だと後から教えてもらった)が珍しくて軽く雷を落として良い感じに焼いてみたり。思い出せば思い出すほど碌なことしてないな、などと他人事のように呟いた。極めつけは今日丸焦げにしたヒッポグリフだろう。


「本当お前は予想を上回るよな」


 何を、とはあえて聞かないことにしておく。家に上がってもらおうと扉を開けると、顔面に何かが飛んできた。


「きゃっ!」
「ご主人様、ご主人様!」
「オリーブ?一体どうしたの?」
「大変なの!大変なの!」
「一体何が…」


 焦ってくるくると目の前を飛び回るオリーブに困惑する。詳しく話を聞こうとしても、オリーブはパニック状態だ。説明を求めて家の中へと入った。すると困った顔をしたローダンセとスケトシアがいた。

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