優しい黒魔女 | ナノ


▼ 018

「それで、だ。話は戻るが、貴女はこの現状どう思う?」


 そういえばそんな話だったわね、と記憶を遡る。今度ははぐらかすことはせずに、彼が求めている意見を述べる。


「急激に魔物が凶暴化しているわ」


 マイコが住んでいる森の魔物も、近頃目まぐるしく活発化している。良い例がケルベロスだ。ケルベロスは見た目こそ極悪ではあるが、性格は大人しい部類に入る。害されない限り自ら仕掛けることはない。それなのに、男に襲いかかっていた。
 男が攻撃したのなら分かるが、精霊達お墨付きの実力者だ。明らかにレベルの違う魔物に剣を向けることなどしないだろう。恐らくケルベロスが暴走したと予測出来る。
 それにケルベロスだけではない。ギルドに行けば魔物討伐要請が2、3年前の倍近く張り出されている。一目瞭然とまではいかないが、着々と何かが起こり始めている。マイコはこの異常を色濃く感じていたが、肝心の原因は分からず仕舞いだった。


「貴方は原因を知っているの?」


 その問いかけに些か逡巡して言葉を組み立てる。


「…そうだな。恐らく魔法使いが極端に少ないことが主な原因に挙がるだろう」
「極端?」


 彼の言い方だと、まるで以前にももっと大勢いたようだ。現在の魔法使いの数は百足らず。全土から集められた全てが王城で働いている。この世界に来てから人数が急激に減少することは無かったはずだ。


「ああ、そうか」


 怪訝な顔をする彼女に、何かに気付いたように声をあげた。


「貴女は知らないんだったな。…何もかも」


 その声音は哀れんでいるようにも、哀しみを堪えているようにも思えた。知らず知らず自分の体を抱きしめたマイコは、波瀾の予感を第六感でひしひしと感じていた。


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