優しい黒魔女 | ナノ


▼ 016

「…そうだな」


 ポツリとそう呟き、タイムは小さく口角を上げた。想定外の反応にマイコは目を瞬いた。鋭く怜悧な顔立ちが、微笑みを刻んだことで印象が一気に和らぐ。


(ギャップ萌え…世の中の女性はこうしてオちていくのね)


 達観して、四苦八苦する女の姿を思い浮かべ彼女は遠い目をする。


「貴女の見方を改めよう。思っていたよりも面白い女(ひと)のようだ」
「あら。面白いか否かで判断してしまうの?」
「面白くないよりも面白い方が良いだろう。刺激も必要だ。」


 心底愉しげに弾む声音に、次はマイコが呆れる番だった。どうやら目前の人物は堅物などではないようだ。マイコは試されていたことを瞬時に悟る。


(堅物どころか只の愉快犯じゃない。余計に性質が悪いわ。それにしても私もまだまだね、本質を見抜けないなんて)


「唯一の"黒"を持つ魔女と聞いて、前々から会ってみたかったのだ。こういう形で叶うとは思っていなかったが」
「…いやに饒舌なのね」
「久方ぶりに楽しめそうだからな。…"異世界から訪れた魔女"殿?」


 マイコはひゅっと息を呑んだ。緊張から手が震える。


(どうして、知ってるの?)


 マイコが異世界からやって来たことはほんの一握りしか知らないはずだ。魔具屋のグラジオラスに、八百屋のフリージアを含んだ親しい数名だけ。ましてや初見のタイムになど、知られているはずはない。それなのに、何故?


「そう怖い顔をするな。折角の美人なのだから」


 こんな時にまで戯れ言を。目を眇めて得体の知らぬ男を睨みつける。


「…冗談ではないのだが。ああ、分かった。分かったからそう睨んでくれるな」


 タイムは苦い顔で片手をひらひらと揺らした。


「貴女が異世界人だと聞かされているのは私と数人だけだ。どれも信用のおける者だから言いふらしたりなどの心配は要らない」
「…そう言う貴方が一番信用出来ないのだけど」
「これでも口は堅い方だ」


 胡乱な目で男を見やる。自分で言う者ほど信頼に欠けるということを知っているのだろうか。でもまあ、信じてみても良いかもしれない。そう思うほどには、最初の悪印象は改善されつつあった。


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