優しい黒魔女 | ナノ


▼ (011)

「変わらずのんびり生活しているわ。あ、でも昨日また命知らずがやって来てね」


 柔らかい笑みはすぐになりをひそめて、苦いものに変わる。俺は片眉を上げて応じた。


「あ?馬鹿はまだいたのか」
「精霊達が言うにはそれなりの実力者らしいけれど。運悪くケルベロスに襲われていて、もう少しで死んでしまうところだったわ」


 言い方からして、彼女が自ら出向き手を貸したのだろうと予想がつく。眉を潜めれば、マイコは目を瞬かせて無防備に首をコテンと倒した。
 この仕草を計算でやる女は目が腐る程見てきたが、子供以外で天然でする女は彼女くらいだろう。何も考えずにする仕草がこれほど庇護欲を掻き立てられるなど、彼女に会うまでは知り得なかった事実だ。
 それはさておき注意はしておかなければならない。


「マイコが強い事は充分知っているが、女なんだから無茶はしてくれるな」
「…心配してくれるの?」


 虚を突かれたのか、目を見開く彼女を見返す。何を今更、と思う。


「するに決まっているだろ。俺が好いてる女だ」
「…ありがとう」


 真っ直ぐに思いのままを紡ぐ。そうするとマイコは赤らめた目元を振り切るように瞑目した。どうやらこういった直球の言葉は慣れないらしい。何百回と繰り返しているのにも関わらず、未だに初な彼女を心底愛おしく思う。
 俺は、マイコのことが好きだ。勿論恋愛感情として。一目惚れとは少し違うが似たようなものか。第一印象は、それなりに整った顔をしているが華の無い成人していない娘ってとこだった。しかしすぐに彼女が俺とたった3歳しか違わないことが判明して唖然となった。
 その時、マイコは混乱していたようだが冷静に状況把握に努めていた。印象は良い方向へとガラリと変わり、品のある女性だと認識させられた。その時点で、俺はもう好意を抱いていたように思う。
 彼女の人柄故なのか、直感なのかは分からないが惹かれたのは事実だ。もしかすると今まで生きてきた中で本気になったのは初めてかもしれない。周りには計算尽くで寄ってくる女ばかりだったから、マイコのような存在は新鮮だった。


「お前も中々ガードが固いよなぁ」
「…私なんかよりももっと素敵な人がいるでしょう」
「俺はマイコじゃないと愛せないと言っているだろう?何度言わせる気だ」


 しかしずっと口説いているというのに、感触が掴めない。良い様に躱されているのが気に入らない。恨めしげに吐き出せば、マイコは頬をほんのりと上気させながら困った顔で見上げてきた。


「私は一生独身を貫くの」


 その言葉が何を意味しているのか、気付かないほど馬鹿ではない。それは確かな否定。マイコが俺に対して好意に近いものを抱いてくれている確信はある。だが、彼女自身それを認めつつも首を横に振る。恐らく俺を気遣っているのだろう。聡明なマイコのことだ、黒魔女と呼ばれていることも知っているのだろう。だけど人々が彼女のことをそう呼ぶのは、決して畏怖からだけではない。そこには敬意がある。


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