優しい黒魔女 | ナノ


▼ 009

「何かオススメありますか?」


 棚に並ぶ野菜は元の世界で手に入るものと同じだ。ただし、王都なので色々な地方から集まっている食材は多種多様だ。言ってみれば海外の市場みたいなものだ。見たことはあっても食べたことのないものも多く、この世界に来た当初は戸惑った。だが慣れてしまえばこっちのもので、順応性の高いマイコは早々に楽しんでいた。元々料理は好きだったし、知らない食べ物に興味津々な彼女は毎回珍しい食材を買って帰るのが常である。


「南の方からドリアンを入荷したよ」
「ド、ドリアンですか」


 楽しげに口元を歪めるフリージアに思わずたじろぐ。流石のマイコもドリアンは食べたいとは思わない。どう調理していいのか分からないし、根本的に匂いがキツいものは苦手なのだ。納豆は食べられない派である。ちなみにこの世界に納豆は存在しない。作ろうと思えば作れるのだろうが、苦手なものをわざわざ作る訳もなく。


「それ以外、あります?」
「他かい?そうだねぇ」


 あからさまに残念そうにする彼女には申し訳無いが、無理なものは無理なのである。フリージアは考え込むような動作をして口を開けた。


「ペピーノはどうだい?」
「ペピーノ?」
「これだよ」


 そう言って差し出したのは何やら紫色の縦縞模様が入った10cm程度の丸い物体。初めて見る食材にマイコは首を傾げる。


「高地で採れるものでね。王都では中々珍しいんだよ」
「これって野菜、なんですか?」
「果菜だよ。キュウリとか、甘味の少ないメロンみたいな味がするんだ。使うならサラダが妥当だと思うね」
「へぇ…。じゃあそれ、2つ下さい」
「毎度!」


 興味を惹かれたマイコは買うことに決めた。あとはいつも通りジャガイモやキャベツ、タマネギ、ネギ、オレンジ、リンゴ等の代金を支払った。紙袋に詰めてもらったものを受け取り、リュック(実はこのリュックの中は亜空間である)に入れて礼を述べる。


「こっちこそいつもありがとうね。またおいで」
「はい」


 フリージアの温かい言葉にふわりと笑んで次の店へと向かう。魚屋や肉屋にも寄り、用事はもう無いか確認した所で事件は起こった。

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