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▼ #5

 インターホンの音が誰もいない家の中に響き渡る。いつ来るのかとそわそわしていた体が瞬時に固まる。バクバクと心臓が波打つのを感じながら、なんでもない風を装ってドアを開けた。


「確認してから開けなよ」


 呆れた表情で立っていた先輩は、当然私服姿。細見のジーンズにVカットのTシャツの上から軽く上着を羽織っている。胸元には小ぶりのネックレスをつけていて、それが様になっているのがなんとなく悔しい。学校と同じように軽くワックスで髪の毛を整えている先輩は、いつもよりも恰好良く見えて、ずるい。
 気恥ずかしさを押し込めて、だって、と口を尖らせた。着いたよ、と連絡があったすぐ後のインターホンなんだから、先輩以外にはありえないでしょう。そんな言い訳を先輩は一蹴した。


「気をつけること。いいね?」


 仕方なく頷くと、ようやく先輩は顔を綻ばせた。ぐしゃぐしゃとオレの頭をかき混ぜて笑う。甘んじて受け入れながら家の中に入るように促した。


「先輩、なに持ってきたんですか」
「ああ、これ?イロイロ」


 先輩が肩からかけたボストンバッグはけっこう膨れている。一体何が入っているのだろうか。問いかけたら先輩は案内した先のオレの部屋で降ろしてバッグを開けた。覗き込むと漫画やらゲームやら、それから大半を占めているのはお菓子。ぽいぽいと床に置いていく先輩はひどく楽しそうだ。
 バッグの底の方から何やら取り出して手渡された。箱入りのお菓子だ。中身は白あんのおまんじゅう。首を傾げると、先輩はまた笑う。


「泊まらせてもらうからね。家の人に、どうぞ」
「え!そんな、気をつかわなくてもいいのに」
「印象は可能な限り良くしておきたいし」


 大事な息子さんとお付き合いさせてもらっていることだし。そう言って先輩はウインクをした。オレは一瞬固まって、ぎこちない動きで首を縦に振った。顔が、熱い。


「ふふ、顔赤い」
「ッ!コーヒーでいいですねっ」
「うん、お構いなく」


 クスクスという先輩の笑い声を後ろに聞きながらドタドタとドアを閉めて階段を下りる。この人は本当に心臓に悪い。

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