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▼ #2

 少し肌寒いけれど、冬の気配が去り春が足音を鳴らしてやってきたような1日。そんな今日はホワイトデーである。世の中はバレンタインデーよりかは静かだが、ほんの少しざわついている。
 世の中はこの日をホワイトデーとしているが、おれには関係のなかった日だ。そう、過去形。なぜならおれには恋人がいるからである。
 一年前の今日は、一年後の今の自分を想像すらしなかっただろうし掠りもしなかっただろう。男同士でも恋人同士ならバレンタインデーやホワイトデーには縁があるだろうって?
 …まあ、なんだ、気恥ずかしいというかなんというか。バレンタインデーに男のおれがチョコレートを作るのも買うのもおかしいだろうと何もしなかった。そんなものに縛られるのも嫌だな、と思ったんだけど当日にそわそわしてしまったのはしょうがない。
 複雑なオトコゴコロを分かってくれたのか、先輩は何も言わないでいてくれた。もしかしたら内心は違ったのかもしれない。なにも出来なかった小心者のおれ。少しだけ、申し訳ない。


「今日はホワイトデーだね」
「ですね」
「…ふ、」


 突然先輩が笑い出したのを訝しげに見やる。一体どうしたというのだ。


「ほんと、かわいい」
「なんですかいきなり」
「バレンタインデーもホワイトデーも、そわそわしてる」
「!」


 クスクスと笑う先輩に体温が一気に上昇した。バレてたのか。恥ずかしい。男同士だからって言い訳しながら、ただ自分に素直になれないだけのおれ。


「来年のバレンタインデー、チョコくれる?」
「…ハイ、」


 こうして言ってもらわないと、イベントすら尻込みしてしまうおれをかわいいと先輩は笑うから。甘やかすから。


「せんぱい」
「ん?」
「…とびきり甘いの、作りますね」
「作ってくれるんだ、楽しみ」


 だから、ほんと、だいすきだ。

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