▼ #1
「今日のご飯は?」
「オムライスです」
そよそよと頬を撫でる風が気持ちいい。お昼休み、中庭にあるベンチで待ち合わせするのがいつものことで、おれの方が先に着いて先輩が片手をあげて登場するのもいつものことだ。
両親が共働きで忙しいため、自分のご飯は自分で調達している。高校生という身分で、たくさんバイトが出来るわけじゃないから結局自炊に落ち着いた。最初はぐっちゃぐちゃだったけど、今はもうなんてことはない。レパートリーも増えて、人様に見せられるお弁当を作れるようになった。
最近の冷凍食品はかなりクオリティが高いらしいが、おれは大体自作する。そういう家庭で育ったからだ。それを先輩はすごいすごいと褒めてくれる。
ちゃっかりとおれのカレシ様はお弁当を作ってくれと注文してくれたので、こうしてお昼休みに一緒に食べるようになるのは必然だった。
なんでも美味しいと食べてくれるので、作り手にしてみればお弁当の中身を考えるのも一苦労だ。先輩は何がいいかと聞くとなんでもいいと答える人である。
「ケチャップは?」
「ぐちゃぐちゃになるので後からかけようと思って容器に入れてきました」
「で、その容器は?」
「忘れました」
「なんでやねん」
関西弁でつっこまれた。まあおれが悪いんだけど。忘れてしまったものは仕方ない。
オムライスの中身はチキンライスでしっかり味付けされているので大丈夫だろう。微妙な顔をした先輩をスルーしタッパーを開けて食べ始める。
「"すき"とか書いてほしかったのに…」
「先輩ってベタなの結構好きですよね」
「悪い?」
「いえ、別に」
早く食べないと時間がなくなっちゃいますよ、と促せばようやくスプーンに手をつけた。ブツブツと言いながら口に含んだら、とろけるような笑顔を浮かべた。先輩が美味しい、と甘い声でつぶやく。
この顔が好きで、また明日も頑張って作ろうと思うのだから、恋というのは厄介だ。
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