アストロノート | ナノ


▼ 005

 今回はすんなり(?)と入れたけれど、この先確認に時間が必要だなんだと言われると面倒なので身分証明書を作ることにする。老婆が持たせてくれた手紙がそうなると言われればそれまでだが、もっとすんなりと騒動を起こさずに入りたいのだ。
 発行する方法が何かあるかと問うと、門番はギルドと呼ばれる組合に行けば犯罪履歴に引っかからない限り大丈夫だと言う。場所もちゃっかり教えてもらい、のんびり向かっている最中だ。
 門をくぐった途端、威勢のいい客を呼び込む声がした。見れば通りに沿ってずらりと屋台が並んでいて、活気に満ち溢れている。香ばしい匂いにつられて行列の最後尾に並んだ。


「この街はいつもこんな風に屋台を出しているんですか?」
「うん?君はここに来るのは初めてかい?」


 前に並んでいた男性に声をかけると人の良い笑みが返ってきた。中年に差し掛かる直前の年齢だろうか、大人の色気が眩しい。ダンディーなおじさま、といった容姿の男の問いかけにナートが肯定すると親切にも色々なことを教えてくれた。


「明日からこの街で祭りがあるんだよ、それでこの人混みだ」
「祭り、ですか」

 なんでも、冬が明けて最初に採れた作物を土地神様に捧げて残り物を街人たちでご馳走にして食べる祭りだそう。ナートは土地神様という概念があることに驚きながらも相槌を打った。
 この地の物価はどれくらいなのか、食べ物は何が美味しいかなどを聞いているうちにダンディーなおじさまの順番がまわってきた。屋台を切り盛りしているのは恰幅のいいおっちゃんで、威勢のいい声を上げながら手際良く手元で何かを作っていた。ナンのようなものにこの街特産の腸詰めとグリルした野菜を挟み、食欲をそそるソースをかけて出来上がり。
 ダンディーなおじさまはそれを2つ受け取り、1つをナートに差し出した。


「君がこの街に来た記念に、おひとつどうぞ」
「え、でも」
「食べてくれないと、私は流石に2つも食べられないから捨てるしかないな」


 そう言われてしまえば受け取るほかない。ナートは苦笑しながら差し出されたホットサンドを受け取った。名前を聞かれてナートです、と答えるとナートの頭をポンと撫でておじさまはにっこり笑った。


「ナート君の旅に幸あれ!」


 そのまま颯爽と去っていく後ろ姿には気品が感じられた。あつあつのホットサンドを一口かじるとピリッと甘辛いソースが口の中に広がった。
 楽しい旅になりそうだ、とナートは笑みを零した。

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