▼ 012
ナートは無心で調合する。それが終わる頃にはすっかり肩が凝ってしまっていた。グルグルと腕をまわして背伸びをしていると、ディートヘルトがやってきた。
「それがアンタが作った薬ね」
綺麗に並べられたガラスの小瓶をひとつ持ち、眼前で揺らした。サラリとした液体であることを確認し、次いで瓶の蓋を開けて一気に飲み干した。
「!?」
「効力を確かめるには飲むんが一番やろ?」
「そ、それはそうですが…」
ナートは目を白黒させて笑みを浮かべる美少年を見上げる。まったく腕の分からない者が作った薬など、ナートであれば飲むという暴挙には出られない。変なところで度胸が座っているディートヘルトであった。
ディートヘルトにしてみればこれで体調が悪くなれば自分で薬を調合するという手段があるので普通の行動だと思っている。体調が悪くなる可能性がある時点で躊躇するのが普通であると、このエルフは分かっていなかった。
「…しかしこれは…飲みやすいな。果実が入ってるんか」
「はい、そうです」
「レモンやな。…ん、あと蜂蜜か?」
一発で材料を当ててみせたディートヘルトに舌を巻く。ナートは自分なりに飲みやすい薬を日々研究していた。
切っ掛けは、薬を泣いて嫌がった村の子供達だ。この世界では良薬口に苦し、を良しとする。そのせいか薬は効力さえあれば味は気にされない。つまり、かなり苦いのだ。大の大人が涙目になるくらいに。
それを体感したナートは地球での子ども用の甘い薬を参考にして試行錯誤し出来上がったのが今の薬である。甘い薬の内訳など分かるはずもないので舌だけを頼りになんとか飲みやすい薬をと努力してきた。
薬の効力を弱めることなく、かつ飲みやすくなるようにと研究した結果、幾通りかの組み合わせにたどり着き、その都度薬に合わせて配合するようになった。まだまだ改良の余地はありますが、とナートは微笑んだ。
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