▼ 011
「薬草は死ぬほどある。ギルドにも在庫があるし幾らでも使っていいで」
ぼんやり思考の海に沈んでいたナートは、ディートヘルトの声に顔を上げて頷いた。ギルドからの依頼である薬製作は、費用や材料も負担してくれるらしい。薬草は新人冒険者から少量の貨幣と交換するため幾らでもあるのだという。ゲームで言うところの何度でも受けることの出来るクエストだろう。
「ポイズンモスってどんなモンスターですか?」
「見た目は30センチくらいの蛾やな。人間の血を好んで飲む。獲物の血を飲む前に、獲物が暴れへんように毒を注入するねん」
「麻痺毒、ですかね」
「せや。それも強力なヤツな。あと血の流れを早くする効果のある毒もや。刺されると一週間ほどで死に至る。血が止まらなくなって汗腺から噴き出して出血死するねん」
「…それはまたエグいですね」
「ま、本体(ポイズンモス)自体は弱いからそこまで悲観することでもないで。毎年のことやしね」
なるほど、と顔を縦に振る。ナートの頭の中ではどのような薬を作るかはじき出していた。
「ディートヘルトさんはどんな薬を作っているんですか?」
「あー、ここには在庫がないから…そうやな、今から作ろか」
ディートヘルトはキョロリと室内を見渡してゴソゴソと動き出した。ナートも底無しカバンから道具を取り出してセットする。用意された薬草を何種類か拝借して、早速作業に取り掛かった。
薬を作る時は言わずもがなかなりの集中力が要る。この世界での薬は、分量などは決められておらず、もちろん計量器も存在しない。自分の腕と勘に頼るしかないのだ。
だからこそディートヘルトが言うように薬師によって薬の効力が違ってくる。薬師という仕事は信頼第一なのだ。
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