06



「エミリエンヌ様」


 なあに?と首を傾げようとしたけど出来なかった。まだ首座ってないから仕方ない。


「大好きです。あの方達のようにはならないでくださいね」


 微笑を浮かべながら、アナベラさんは懇願するかのようにそう言った。屋敷で働く人間に、仕えるべき主人に対してこんなことを言うほど私の両親は出来が悪いのだろうか。同じ建物にいる限り、身内のようなものだ。本当の姿を知るアナベラさんがそう言うくらいに、私の親は周囲に嫌われているのか。それを知ってもあまり哀しくないのは、心の底では親と認めていないからかもしれない。
 正直、私は転生者だと言ったけど日本にいた時のことはあまり覚えていない。知識はあるんだけど、取り巻いていた環境についてはサッパリ。両親の顔も白い靄がかかったように思い出せないのだ。この世界で必要とされない事柄だからかもしれない。でも、私は両親に愛されていたことは覚えている。確かに注がれた愛情は忘れやしない。だからこそ、この虐待に似た状況を冷静に受け止めることが出来ているんだと思う。
 心配しなくても大丈夫だよ、と心中で語りかける。私がこの家を変えてみせる。待っていてね。早く大きくなるから。


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