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「中へどうぞ」


 イネスさんが扉を開ける。お礼を言ってから部屋の中へと入ると、そこには紅茶の良い香りが漂っていた。ガラスのテーブルの上には茶器と焼き菓子の入ったバスケットがある。
 この世界、アミラでは食材は地球とほとんど変わらないと思う。基本的にはやっぱりパンが主食で、地球でいうヨーロッパの辺りの食生活とよく似ている。お米もあるにはあるらしいんだけど、栽培している大陸が違うから滅多に食べられないものらしい。『らしい』と言ったところから分かるとは思うんだけど、私はアミラに生を受けてからまだ一度もお米を口にしていない。別にパンも嫌いじゃないし、むしろ好きなんだけど、やっぱり無性にお米が恋しくなる時がある。…色々落ち着いたら旅行に行くのもアリかな。


「おかしだー!」
「食べる前に御手を拭いてくださいね」
「はあい」


 キラキラと目を輝ける私にジジさんがストップをかけた。すかさずイネスさんが湿ったハンドタオルで私の両手を丁寧に拭く。椅子に座ってジジさんとイネスさんと、テーブルの上にある焼き菓子を見比べていると、彼女達は微笑ましそうに目を細めて許可を出してくれた。


「どうぞ召し上がってください」
「いただきます!」


 一口紅茶を飲んでほっこりした気分になる。お、今日はオレンジペコーかな。良い香りがする。それと、たぶんイネスさんが淹れたもの。

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