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「しっていらっしゃるでしょうが、エミリエンヌ=M=フェリシテともうします。このたびはごきょうりょくにかんしゃいたします」
「ご丁寧にありがとうございます。ベランジェというのは偽名ですが、どうぞ呼んでくださいね。今この時から貴女様のことをエミリエンヌ様とお呼びさせていただきます。私のこともベランジェと呼び捨てでお呼びください」
「わかりました」
「敬語も必要ありませんよ」
「はい…うん、わかった」


 コクリと頷けば、ベランジェさんは柔らかな笑みを浮かべた。何もかもをさらけ出してしまいそうになる。すべてを言ってしまえば自分は楽になるのではないかと。そんな自分に驚いた。これほどまで私の心の奥底にスルリと入り込む人物は初めてだ。
 これこそがベランジェさんの強みなのね。私もペロッと話してしまわないように気をつけなければいけない。きっとベランジェさんはギュスターヴの証拠収集だけではなく、私、エミリエンヌの監視の役割も担っているだろうから。
 国王陛下がこんなにもあっさりと私の言葉を信用するはずがない。この外見の年齢だと、どれだけ高位な家の人間であってもここまでの思考力があるなんて不自然でしかないだろう。
 フェリシテ家をどうにかしなくてはいけないという使命感に駆られて突っ走ってきたけれど、よくよく考えれば私の言葉を丸々鵜呑みにするわけがないのだ。違和を感じていないはずがない。裏で私を誰かがあやつっているのではないかと誰しもが疑うだろう。私が国王陛下の立場ならそう思う。
 ベランジェさんは私の後ろ盾を調べる任務もあるに違いない。もちろん、私に後ろ盾なんてあるわけもない。だけど調べられて一番疑われるのは、私に近しい者だろう。ジジさんとイネスさん、そしてアナベラさん。この三人が私に一番関わることが多い。疑われるのは仕方がないんだけど、でもなあと思う。
 ここで私が三人に疑われていることを告げるのは、したいけれど得策ではない。不審な動きをしてしまえば更に疑惑の種となってしまう。何もないことを伝えることが出来ないのが歯がゆい。三人を守れないことがもどかしい。
 私はそっと目を伏せた。もし。もしも。どうにもならなくなったら、その時にはすべてを話そうと思う。三人にも、ベランジェさんにも、国王陛下にも。たぶん、いつかその時が来る。その時には私は私でいられるだろうか。私が宮迫理沙なのか、エミリエンヌ=M=フェリシテなのか、決断を下せるのだろうか。

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