56 それぞれの思惑
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食事を終えて今は国王陛下と対峙しています。威厳はどうやら拾ってきたらしく、いかにも王様な雰囲気を醸し出している。私は促されるまま顔を上げた。
「そなたが申した件について承認するが、他には漏れぬようにせよ」
「はい」
「連絡用として一人寄越しておこう」
国王陛下の後ろで控えていた男が一歩踏み出した。
「こやつの名をベランジェという」
男、ベランジェさんは微笑みを浮かべて頭を下げた。私も同じく礼をする。ベランジェさんはこう言ってはなんだけど普通の人だ。顔立ちが特別整っているというわけでもなく、驚くほどに存在感がない。穏やかそうなその顔は、他に埋没しすぎてすぐに忘れてしまいそうだ。
そこまで考えて、ああそうかと思いいたった。きっとこの存在感の無さがベランジェさんの強みなのだろう。隠密などといった周囲に悟られてはいけない任務には持ってこいだ。
ギュスターヴは基本的には他人に対して無関心だ。恐らく使用人の顔どころか数も把握しているかどうか危うい。ただ怪しい動きをする者に関しては勘が働くようだから、そこは要注意だ。しかし裏を返せばそれをかいくぐれば何だって出来るということだ。ベランジェさんは特に特筆したところがないのできっとバレないだろう。
国王陛下が直々に対面させるくらいには信用に値するのだろう。こういった穏やかそうな人間に限って何を考えているのか読めないものだが、まあそんなにカリカリしなくても平気そうだ
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