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「…こんご、にんげんのすがたでキスをしないように」
「何でですか?」


 「駄目?」ときゅるんとした目で見ても駄目なものは駄目だからね。絆されませんよ。大体美青年がそんなかわいこぶっても似合わな…似合うな。何でだ。くそ、これが美形が美形たる所以か。なんか悔しい。
 というかもうイネスさんとジジさんはまさしく「茫然自失」といった風になっちゃってるしさ。なんか誤解されそう。いやいやいや、二人はシルヴェストルがちゃんと神獣だって知ってるんだからまさか誤解することなんて、ない、よ、ね?


「………エミリエンヌ様」
「は、はい!?」
「恋人などではありませんよね?有り得ませんよね?」


 ジジさんが怖い。ものすごく怖い。女性にはあるまじき地を這う声に何度もガクガクと首を縦に振った。対して当事者の一人であるシルヴェストルは分かっていないのかキョトリと瞬きを繰り返している。
 ああそうか。元々威圧感のすさまじいシルヴェストルにはジジさんの黒い笑顔なんてへっちゃらなのか。なにそれズルい!大体、仕えられているはずなのにこの扱いってどうなの。いや、愛されているが故なのは分かっているんだけどね。


「そうですか。なら安心です。ところで神獣様」


 にっこり。効果音の後ろに、何か黒いオーラが見えるのは気のせいなんでしょうか。いや気のせいだ。そうに違いない。思い込まないと私が泣く。


「エミリエンヌ様を下ろして差し上げてください。それをしていいのはエミリエンヌ様の未来の旦那様のみです」
「…ジジ?」
「ええ、もちろんそのような悪い虫には鉄槌を施しますが。…簡単にエミリエンヌ様を渡してやるものですか」


 随分話が飛躍しましたね。私、まだ5歳だよ?夫とかはまだ早すぎるでしょ。でもそれは言えなかった。だって、だってジジさんの目がマジだったんです。本気と書いてマジだったんです。何よりも最後の科白が一番笑顔が黒かった気がする。…今日は絶好調ですね(何がとは言わないけど)。鼻にキスくらいで大げさな。

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